あなたが入室されたという連絡があり、
ホテルへ向かった。
私が眠っている間にも、
雨は降り続いていたようだ。
靴がびしょびしょになるほどではないけれど、
もう少し緩やかに降ってくれたらいいのにな。

ポツポツ、ポツポツ。
傘を叩く雨音が耳に届く。
さっき「耳で聴く風景」のことを
書いたばかりだからだろうか。
今、目の前にある風景と、
このポツポツという音が結びついて、
いつか今日を思い出す
記憶になるような気がした。
そう思ったら、
いろんな音を拾いたくなってきた。

そういえば、台風はどうなったのだろう。
出勤してしまえばテレビを観ることもないし、
ネットでわざわざ調べようとも思わない。
外へ出れば、空や風が
教えてくれるような気がしていた。
でも、この雨の降り方を見ると、
もう嵐は過ぎ去ったのかもしれない。

大通り公園の木々は、
雨をまとってしっとりと光っていた。
太陽の光を受けて輝く緑も好きだけれど、
水に濡れた緑の艶は少し違う。
どこか色香がある。
そうそう。
「水も滴るいい女」っていうものね。

そんなことを考えながら歩いているうちに、
本日最初のドアが開きました。

一週間と少し前、
「またね」とお別れしたあなた。
また逢える日を楽しみにしていたあなたが、
今日も愛くるしい笑顔で迎えてくださった。

「わあ、逢いたかったわ」
言葉を言い終えるより先に、体が動いていた。
あなたに抱きつき、その温もりを感じる。

また逢えたことが嬉しくて、
隣にぴったりくっつきながら、
逢えなかった間の
いろんな話を聞かせてもらった。

お風呂でもじゃれ合い、二人だけの時間へ。
私が触れるたびに
伝わってくるあなたの反応が嬉しくて、
「かわいい、かわいい」と言われれば、
私まで嬉しくなってしまう。
そして熱く抱きしめ合いながら感じた、
あなたの優しさと温もり。

そこへ、ちょうどいいタイミングで
ビールとおつまみが届いた。
冷えた缶ビールを手にして――
乾杯。
プシュッ。
缶を開けた、
その小さな音が妙に心地よかった。

ああ、やっぱり音って大切なんだ。
色がそのときの気分を変えるように、
音もまた、人の心を変える。
たった一つの「プシュッ」が、
二人だけの時間に
小粋な演出を加えてくれる。

今日は熱々のチヂミ。
あなたは「熱い、熱い」と言いながら
頬張っていた。
ウインナーも試して、枝豆までおかわり。
「もうお腹いっぱいだよ」
そう言うあなたの隣で、
私はおいしくいただいた。
いつか枝豆好きのあなたに、
旬の本当においしい
紫ずきんも食べてもらいたいな。

ビールを飲みながら話して、
笑って、くっついて。
なんだか恋人同士のような時間だった。
そして何より嬉しかったのは、
「11日は、もうちょっと長くするよ」
と言ってくださったこと。
長くなる時間そのものより、
そう思ってくださった
あなたの気持ちが嬉しかった。

月曜日の午後。
あなたと、少し早い秋の夜長の夢を
見たような気分だった。
「また11日ね」そう言って、
心潤う時間の余韻を胸にホテルを出た。

外へ出ると、やっぱり思った通り。
台風はもう、どこかへ行ってしまったみたい。
雨はまだポツリ、ポツリと残っていたけれど、
もう傘はいらない。よかった。
今日は靴も濡れずに済みそう。

いつもの場所で日記を書きながら、
あなたと過ごした時間を思い返していた。
すると、久しぶりに風さんがやってきた。

「風さんも台風で疲れたの? 
今日はちょっと勢いがないわね」
「なんだか疲れちゃった」
「そうなの。私はあなたと違って、
なんだか生き生きしているのが
自分でもわかる」
「うん、確かにそうだ。
とってもいい時間だったんだね」
「そうよ」

そして、ふと思った。
あなたが奏でる音。
私が奏でる音。
声も、笑いも、グラスを合わせる音も、
あの小さな「プシュッ」も。

二人の音と音が重なって、
美しく穏やかなメロディーをつくっていた。
ホテルを出た今も、
その音楽はまだ耳元で流れている。

そして私は知っている。
この曲には、まだ続きがある。
次にその続きを聴けるのは、11日。

そう思うだけで、
私の心にはもう、
次のメロディーを待つ
小さなときめきが鳴り始めていた。