長い一日が終わろうとしている。

今日という日は、
ひとつの色では言い表せない一日だった。

やわらかな色もあった。
少し背筋の伸びる色もあった。
甘さを含んだ色もあった。
そして、
ふっと肩の力が抜けるような色もあった。

それらは決して強く主張することなく、
気づけば心の中に重なっていた。
人と向き合うたび、
言葉を交わすたび、
ほんの少しずつ自分の輪郭が変わっていく。

優しさに触れれば、
自分の中の柔らかさを思い出す。
丁寧に扱われれば、
自分自身をもう少し丁寧に扱いたくなる。
笑顔を向けられれば、
こちらの心にも小さな灯りがともる。

今日の私は、
そんな小さな灯りを
いくつも受け取りながら
歩いていたような気がする。
そして不思議なことに、
心が満たされるほど、
何かを強く握りしめたくはならなかった。
むしろ、
ひとつずつ手放していくような感覚があった。

焦りも。
緊張も。
少しの疲れも。

そのたびに、心の中に余白ができた。
その余白へ、
誰かの優しい声や、
ふとした眼差しや、
あたたかな温度が静かに入り込んでくる。

今日一日の物語は、
最終章に入ろうとしている。

一日の終わりになって、
強い風が吹いている。

けれど、
その風は何かを奪っていく風ではない。
今日心にまとったものの中から、
もういらないものだけをそっとさらって、
残しておきたいものだけを
浮かび上がらせてくれるような風。

その中に、細かな雨粒が混じり始めた。
街の灯りを映した雨粒は、
落ちるたびに一瞬だけ色を変える。
金色にも。
橙色にも。
淡い蜜色にも。

今日一日も、
きっと同じだったのだと思う。
ひとつひとつの時間は短くても、
その瞬間にしか生まれない色があった。

そして今、
その色たちはもう出来事ではなく、
静かな余韻へと姿を変えている。

最後のページはどう書き記そうか。
今日のことを、
言葉で全部残そうとはしなくていい。

覚えていたいのは、
何があったかではなく、

どんなふうに心が動いたか。
少しときめいたこと。
少し安心したこと。
少し嬉しくなったこと。
そして、
気づけば心が
前よりやわらかくなっていたこと。
それだけで十分なのだと思う。

最後のページには、
強い風の中で揺れるいくつもの光を描こう。
その光は重なっても、
決してひとつの色にはならない。
違う色のまま、
それぞれがそれぞれの温度を持って、
私の中に静かに残っている。

やがて風が吹き抜け、
雨粒が夜へ溶けていく。

私もその風景の中に立ちながら、
今日という一日をそっと見送る。

そしてページの端に、
ほんの少しだけ余白を残しておこう。
明日、また新しい色が
そこへ差し込んでこられるように。