12時からご予約をいただいているので、
遅くても11時半には
部屋を出ようと思っていた。
けれど結局、5分ほど回ってしまった。
それでは、
ビニール傘2号を持って行ってきます。

エレベーターを降り、
2階から1階への階段も軽やかに下りていく。
巡り木のふたりが見送ってくれて、
外へ出ると風さんが迎えに来てくれた。

風さん、ちょっと5分ほど遅れたけれど、
急がなくても大丈夫よね。
そうだね。

嵐がやってくる前の、
ほんの束の間の静かな時間。
少し風は強いけれど、
これくらいならむしろ気持ちいい。

もっとひらひらしたスカートだったら、
風に持ち上げられて舞うように揺れるのにな。
そんなことを思うくらい、
今の心もひらひらと軽かった。

朝の薄暗さはどこへ行ったのだろう。
空は思いのほか明るく、
建物の隙間から差し込む太陽を
まともに浴びると、
肌が少しちりちりするように感じる。
日焼け止め、塗ってきてよかった。

ビニール傘2号は持ってきたけれど、
12時にあなたのもとへ向かう頃には、
日傘のほうが似合いそうだ。
昨日は持っているつもりで
忘れてしまったから、
今日はちゃんとバッグへ入れておこう。

なんだか歌でも歌いたい気分だった。
「雨があがったよ、お日様が出てきたよ」
昔、NHKの子ども番組で耳にした、
あの弾むような歌。
その明るいリズムが、
今の心にぴたりと重なる。

ちょうど昨日と同じ場所が
空いていたことにほっとして、
そこに今日の居場所を作った。
そして今度は日傘をしっかり手にして、
ホテルへ向かう。

お店を出ると、また風さんが待っていた。
風さん、暖かいね。
そうだね。
今回の横浜ステイは真夏の服ばかりだから
少し心配していたけれど、
これくらいならまだ大丈夫そう。
夜に寒くなったら、
あのアディダスのウィンドブレーカーを
羽織ればいい。
でも、なかなか似合ってたと思うけど。
そう思う?

そんな他愛もない
会話をしながら歩いていると、
足取りまで少し弾んでくる。

風さん、今日これから逢いに行く方はね。
とっても、とってもお久しぶりの方なのよ。
その言葉を胸の中でそっと転がしながら、
私は再会の扉へ向かって歩いていった。