海辺のホテルでの
ロマンチックなひとときを終え、
迎えの車に乗り込んだ。
車が走り出し、
ほっとひと息ついたところで気づいた。

「あ、傘1号忘れてしまった」
ああ、買ったばかりだったのになあ。
けれど車はもう走り出している。
取りに戻ることもできず、
そのまま次のホテルへと向かった。

行きはホテルの前まで送ってもらえるけれど、
帰りに雨が降っていたらどうしよう。
またコンビニで傘を買うことになるのかな。
そんなことを考えながら、
あなたの待つお部屋へ向かった。

そして、最後のドアへ。
チャイムを鳴らすと、
部屋の中から軽快な声が聞こえてきた。
初めてお逢いするあなただったけれど、
その声だけで、
なんとなく明るい方なのかなと思った。

ドアが開いた。
やっぱり、思った通りだった。
明るくて、笑顔がとても素敵なあなた。
「はじめまして、森村です。
よろしくお願いします」そうご挨拶すると、
あなたはにっこり笑って
「よろしくね」と迎えてくださった。

ソファに並び、
そこから二人の会話が始まった。
あなたはとてもお話上手だった。
いろいろな話をしてくださり、
私もそれに応え、
また私から話しかける。

言葉を投げれば、
あなたから言葉が返ってくる。
そして、その言葉から
また次の言葉が生まれていく。

初めて会った二人とは思えないほど、
その会話は軽やかだった。
まるで秋の夜長に出逢った二人を
祝福するように、
小さなメロディーが流れているようだった。

話しているうちに、
思いがけない共通点が見つかった。
「あ、それ知ってる」
そのひと言に二人で喜び、握手をして笑った。
私は心の中の遠い記憶へ遡り、
そこにしまっていた出来事を
一つずつ取り出すように話した。
あなたもまた、
その記憶に言葉を重ねてくださった。

そして、さらにもう一つ。
「こんな偶然、なかなかないね」
二人で手を取り合い、また笑った。

ひとつ見つかれば喜び、
またひとつ見つかれば、さらに喜ぶ。
笑い、語り、また笑う。
さっきまで優しいメロディーだったものが、
今度は耳元でジャン、ジャン、ジャン、
と鐘を鳴らしているようだった。
会話がつながるたびに、
心も少しずつ近づいていった。

そして、ふと横を見る。
最初は少し離れて座っていたはずなのに、
いつの間にか、
あなたの頬に私の息が
届きそうなほど近くなっていた。
なんだか、それがとても嬉しかった。

ベッドでは、今度は私からあなたへ触れた。
優しく、優しく。
あなたがその触れ方を
受け止めてくださっていることが
伝わってきて、
それがまた嬉しかった。

そして、あなたから私へ。
肌を撫でる手から伝わってくる温かさ。
あなたの腕の中は、とても居心地がよかった。
「俺は、こうやって
イチャイチャしてるのが好きなんだよ」
そう言ったあなたに、心の中で笑った。
私も、そんな雰囲気が好き。
これで、三つ目の共通点なのかな。

言葉だけではなく、
ぬくもりの中にも共通点を
見つけたような気がした。

そして、この時間の最後に
二人で話したラッキーカラー。
白。
赤。
黄色。
1枠の白は、
初めて出会った二人のまっさらな始まり。
3枠の赤は、触れ合ったぬくもり。
5枠の黄色は、
この夜に何度もこぼれた笑い声。

「これで明日、いいことがあるかな」
そんな話をすると、あなたは、
「もしかしたら明日もまた
逢いに来るかもしれないよ」
そう言ってくださった。

また明日、逢えたら嬉しいな。

二人でホテルを出て、あなたとお別れした。

初めてお逢いしたとは思えないほど
話が弾んだ夜だった。
会話がつながり、
そこから心がつながり、
そして、ぬくもりまでが
静かにつながっていった。
そんなあなたとの、
温かな出逢いの時間だった。

帰り道。
「風さん、そこにいるの」
「いるよ。今日は遅くまでお疲れさま」
「ありがとう。雨が降ってなくてよかった」
歩きながら、ふと思い出す。

今日は素敵な出逢いがたくさんあった。
けれど、なくしたものもあった。

アディダスのウィンドブレーカー。
そして、買ったばかりの傘1号。
ちょっと残念。

でも、それ以上に、
心の中にはたくさんのものが残っていた。
笑い声。
握手した手の感触。
言葉がつながった喜び。
腕の中のぬくもり。
そして、白、赤、黄色の三つの色。

なくしたものを数えるより、
今夜、心に残ったものを数えてみよう。

そうしたら、なんだかもう、
まあいいかと思えた。
秋の夜風の中、
三つの小さな色だけが、
まだ心の中で明るく灯っていた。