4時半にアラームをかけたはずなのに、
歩き始めたのは5時38分だった。
消えた1時間8分。
けれど不思議と、
遅くなったことを悔やむ気持ちはなかった。
十日ぶりにこの街を歩けることが、
ただ嬉しかった。
外へ出ると、
光を見るより先に朝がやってきた。
鳥と虫たちの大合唱。
そして風さん。
おかえり。
そう言われたような気がした。
濃いピンクのサルスベリ。
その反対側には淡いピンク。
両側から花の門をつくり、
十日ぶりの朝へ私を送り出してくれている。
見上げた空は真っ白だった。
雲がびっしりなのかと思ったけれど、違う。
もこもことした雲ひとつない。
すべすべと磨き上げられたような、
透き通る白。
その下で、山と空が触れ合う稜線だけが、
ピンクゴールドからイエローゴールドの光を
薄くまとっていた。
あまりに綺麗で、
もう少し近くで見たくなった。
歩いていくと、
建物の陰から細長い雲が姿を現した。
煙のように伸び、半円を描くのかと思えば、
するすると空高く昇っていく。
何に見えるのだろう。
そう考えた瞬間、
龍だ、と思った。
口を大きく開き、今
にも何かを吐き出そうとしている龍。
そこで、昨夜の記憶が蘇った。
眠くて眠くて、
スマホを置けばすぐ眠れそうだったのに、
『鬼の花嫁』の続きが知りたくて読み進めた。
そして力尽きたのは、
龍がクワーッと
本の中から飛び出してきそうな勢いで
現れたところだった。
恐ろしいはずの龍なのに、
その顔はとても優しかった。
まるで私を魅つめ、
心に寄り添ってくれているようだった。
そして昨夜、眠りに渡したはずの時間も、
ちょうど1時間8分。
昨夜の1時間8分と、今朝の1時間8分。
もしかしたら昨夜の龍は、
ページの中で終わっては
いなかったのかもしれない。
私が眠っている間に物語からそっと抜け出し、
夜を越え、朝まで私についてきた。
そして今、真っ白な空を悠々と渡っている。
その口元には、ひとつの玉。
今日という一日に
まだ起きていない出来事を詰め込んで、
どこへ落とそうかと探しているように魅えた。
空はいつも、雲に私の心模様を描いてくれた。
でも今朝は少し違う。
空に描かれていたのは、
心模様ではなく、ひとつの物語だった。
昨夜閉じたはずのページの続きが、
今朝、空の上で始まっていた。
龍、朝を渡る🐉
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