長い一日が終わろうとしている。

朝3時に目覚めたとき、
今日がこんなにも長く、
そして心の色が
幾度も変わる一日になるとは
思っていなかった。

横浜最後の朝を駆け抜け、始発に乗った。
眠るつもりだったはずの車内では、
『鬼の花嫁』に心をさらわれた。

ページをめくるたび胸がときめき、
和歌山へ着いて現実に戻れば、
そこには仕事が待っていた。
仕事の私。
物語にキュンキュンする私。
どちらも今日の私だった。

そして再び電車に揺られながら、
眠たい目に目薬までさして続きを追いかけた。

次が知りたい。
その次も知りたい。

思えば今日は、
ずっと「次」を
追いかけていたのかもしれない。

家に帰れば、「お帰り」が待っていた。
疲れ切った身体には、
そのまま眠ってしまいたい気持ちもあった。
それでも、
私の帰りを楽しみに待っていてくれた
温もりに触れ、
もうひと頑張りしようと思った。

同じ食卓を囲み、笑い、おいしいねと言う。
何でもないようで、
何でもないことではない時間。

そして家へ戻れば、
キャリーケースを開け、
夏から秋へ服を入れ替え、
明日の会社の準備をする。

その傍らでは、
もう15日からの
One Week Yokohama Stay が
始まりかけている。

物語は、最終章に入ろうとしている。
今日という一日を閉じるはずなのに、
私の頭はまだ、次。
次。
次。と、明日へ、その先へ走ろうとしていた。

そんな私をベランダへ誘ったのは、
夜風だった。
頬を撫でる風に顔を上げる。
薄白い雲の浮かぶ暗い空。
その中に、一粒の星が輝いていた。

よく見れば、その傍らにも小さな光。
昨日の今頃は横浜にいた。
今夜はここにいる。
それなのに、
横浜のお部屋からもきっと、
この同じ星を見ることができる。
そう思ったら、不思議だった。

場所は変わる。
季節も移る。
私はまた次の場所へ向かう。

けれど空は、途切れていない。
暗闇の中の小さな光を見つめていると、
「次、次、次」とはやっていた心が、
なめらかにほどけていった。

急がなくていい。
明日のことは、明日の私へ。
15日のことは、15日の私へ。
今日の私が抱えて帰るものは、
もう十分にある。

朝から走り続けた足も、
ときめき続けた心も、
「お帰り」にほどけた胸も、
次へ向かおうとする私も。

そのすべてを、夜風と星が静かに包んでいる。

昨日は横浜から。
今日はここから。
そして次に横浜へ戻った夜、
もし同じ光を見つけたなら、
私はきっと思い出すだろう。

この空は、ずっと続いていたのだと。
星は何も急がない。
ただ暗闇の中で輝きながら、
ようやく歩みをゆるめた私を、
静かに見守っていた。