「乙女の祈り」を奏で終えても、
私の心にはまだ、
透き通るような白が残っていた。

今朝出逢った白いコスモスの美しさ。
何色にも染まっていない白ではなく、
いくつもの色を抱いてなお、
美しく麗しい白。

その白には、群青がよく映える。
そして何より、深紅がよく映える。

ふと、真っ白な城壁に深紅の紅葉が
したたれかかる風景を思い出した。

限りなく透明に近い白と、
静かに輝きながら、
その奥に燃えるものを秘めた深紅。
私は、あのコントラストが好きだ。

もしかしたら、
群青と深紅はずっと私の中で
一緒に生きてきた色なのかもしれない。

群青は、二人の間を流れる静かな語らいの色。
深紅は、その群青の奥で静かに燃える恋の色。

そう考えると、昨日の夜まで蘇ってきた。

美味しい料理と、美味しいお酒。
神奈川のお酒と、馴染みのある八海山。

そして、私の目を奪った藍色の酒器。
丸みを帯びた豊かな姿も、
その深い藍も、とても美しかった。
手に取り、眺めているだけで、
料理やお酒だけではない、
昨日の時空そのものが
そこへ凝縮されているようだった。

よほど私が
気に入っているように見えたのだろう。
「持って帰らないでくださいよ」
お店の方にそう言われ、笑ってしまった。

そしてお酒が空になると、
あれほど愛でていた酒器は、
いつの間にか私の前から消えていた。

あら。

早々に回収されちゃった。

酒蔵からいただいた貴重なものだったらしい。
それならなおさら、
もう少し眺めていたかったな。

そんな昨日の余韻が、
今朝はまだ胸にも、
お腹にもいっぱい残っている。

だから楽しみにしていた月見マフィンも、
今日はなんとなく重たく感じた。
マックの前を、そのまま素通り。 

大丈夫。
マックは逃げない。
こちらにはまだ7日間いる。

今日は身体の声を聞こう。
そう思ってコンビニへ入り、
冷そばに添えるさっぱりしたものを探した。

オクラのとろとろしたものが
欲しかったけれど見つからない。

ちょうど商品の入荷時間だったので尋ねると、
お店の方が二人がかりで
ケースをひとつずつ探してくださった。

結局、お目当てのものはなかった。

「忙しい時間にすみません」そう言うと、
「いや、大丈夫だよ。だってお客さんだから」
優しい声が返ってきた。

嬉しいな。
嫌な顔ひとつせず探してくださった、
その温かさまで今朝のごちそうになった。

一つだけ買うつもりだったのに、
春雨とナスの揚げびたしを二つ。

さて。
いつまでも乙女の胸を撫でながら、
「乙女の祈り」に浸っている場合ではない。

お風呂を洗って、おにぎりを作ろう。
今朝は、持ってきた冷そばに、
おばんざい二品、ゆで卵。
お部屋では、久しぶりの和の朝ごはん。

テーブルに並べながら、また思ってしまう。
ここに昨日の、
あの藍の酒器があったら素敵なのにな。

……でもきっと、
お店の方の判断は正しかった。
あのまま目の前に置かれていたら、
私はいつまで眺めていたかわからないもの。

さあ。

白と群青と深紅、そして藍。

昨日から今朝へ続く美しい色の余韻を
少しだけ食卓に残して、
私の朝のオアシス時間を始めよう。