15時40分、外に出た。

空は曇っていたけれど、
外の空気は気持ちよかった。
風というほど強くはない。
ただ、そよそよと頬のあたりを撫でていく。

風さん、お待たせ。
じゃあ一緒に、
大通り公園を通って歩いて行こうね。
そうだね、

風さん。
結局私ね、1時間半の時間を、
寝るか若様かでずっと悩んでいたの。
寝ようと思った。
本当にそう思ったのに——
やっぱり若様の手を取ってしまった。
若様の扉を開けたのが40分。
それから眠ったのが40分。
やっぱり私って欲張りね。

すると風さんが笑った。
「だって今日は、
あなたの花嫁記念日なんでしょ。
だったら若様の扉を
少しくらい開けたっていいじゃない」

そうね。
風さんの言う通り。
あなたは本当に、
私のことを何でも
よくわかってくれているのね。
私の心の動きまで。

大通り公園の緑の中へ入る。
いつの間にか、
左右をきょろきょろしながら
木々を見上げて歩くのが癖になったみたい。

少し風が強くなってきた。
葉が揺れ、枝がゆらゆらと踊り始める。

そんな中でも、
クスノキだけはどっしりとしていた。
愛にあふれるクスノキ。
その姿を見ていると、
ふと頭に浮かんだ。
嗚呼忠臣楠子之墓。

いつも覚えておこうと思うのに、
肝心なところで忘れてしまう。
でも、こうして
クスノキを見るたび思い出せばいい。
私の記憶の中にも、
少しずつ根を張っていくように。

そして——
本日最初のドアが開きました。

中からパタパタパタ、と音がする。
あなたがドアへ
駆け寄ってくる姿が見えるよう。
そして現れたのは、
あの愛くるしい、少し照れたような笑顔。

わあ、嬉しい。
また逢えた。
ちょうど1週間ぶり。
先週は2回も逢えたのに、
それでもやっぱり嬉しい。

「めちゃくちゃ嬉しい」
そう言って、思わずあなたに抱きついた。
あなたも温かな手で私を包んでくれた。
その瞬間、胸がドキドキした。
ああ、本当に逢えたんだ。

私からあなたへ。
優しく、優しく。
あなたの温もりを感じながら、
あなたの表情を魅つめながら、
夢中になって触れていく。

いつの間にか、
それは私自身の喜びになっていた。

そして、あなたから私へ。
愛くるしい瞳で魅つめられるだけで、
また胸が高鳴る。

あなたの手が私の肌に触れると、
その温もりが
そこから身体いっぱいに
染み渡っていくようだった。

あなたは、なんだかお日様のような人。
いつも私に、温かなものをくれる人。
今日もいっぱい抱きしめてもらって、
その温かな心に、私まで包んでもらった。

そしてビールで乾杯。
枝豆とソーセージをつまみながら、
いろんな話をした。
笑って、語って、また魅つめ合う。

そんな何気ない時間の中にも、
あなたの温かな眼差しがずっとあった。

帰る時間。
「また楽しみに待ってるね」
そう言って、あなたと別れた。

外へ出れば、きっと風さんが待っている。
今日の私は、若様の花嫁になったり、
風さんとおしゃべりしたり、
そして最後には、
お日様のようなあなたの温もりに包まれたり。

欲張りでいい。
だって心がこんなにも動く一日なのだから。

曇り空の下、
今日も私の心の中には、
小さなお日様がひとつ灯っていた。


そよぐ風
扉の向こう
君の笑み
曇り空にも
陽だまり生まる

— Morimura