向かい風に煽られながら、大さん橋を進んだ。
今日は風車も忙しそうに回っている。
耳のそばを、
大きな風の音が通り抜けていく。
その風に揺らされるように、
海面には細かな波が立っていた。
ポコポコ、ポコポコ。
じっと魅つめていると、ふと思った。
ああ、ここにも砂紋がある。
砂に描かれた線ではない。
風が水に触れ、
海がそれに応えて描いている、
水の砂紋。
この海には、
これまでいくつもの思いや言葉を預けてきた。
もういらないもの。
手放したかったもの。
そして、決して失いたくない時間や、
胸の奥まで響いた風景も。
海は、そのすべてを
いったん受け止めてくれる。
けれど、
何もかもを
同じように残すわけではないような気がした。
心に響かなかったものは、
やがて波の向こうへ流れていく。
でも、本当に心を震わせたものだけは、
その振動を海が覚えていて、
そっと深いところへしまってくれる。
そうか。
私の白も同じなのかもしれない。
何もない白ではない。
心を震わせたものが、
色を失うことなく溶け込み、
見えない紋となって幾重にも重なった白。
突然、大きな風が吹いた。
身体ごと持っていかれそうになりながら、
私はなぜか心の中の大切なものを、
ぎゅっとつかんでいた。
いらないものは、風さん、持っていって。
でも、これは駄目。
これは私の中に残しておきたい。
やがて一瞬、風が止まった。
はぁーっ。思わず息を吐いた。
心のサンクチュアリーに立つポールでは、
風に揺れたロープが、
カン、カン、カン。
と音を立てていた。
昨日も聞いた。
一昨日も聞いた。
同じ音のはずなのに、今日は違って聞こえる。
今日のカン、カン、カンは、
まるで新しい物語の始まりを知らせる
鐘のようだった。
そのとき、海の上に一本の白い筋が見えた。
船は通っていない。
水と水がぶつかって生まれたのだろうか。
白い泡が、こちらから向こうへ、
まっすぐ道のように伸びている。
うたかた。
ふと、そんな言葉が浮かんだ。
泡なら、いつか消える。
でも、今朝の私には、
それが儚く消えていく姿には見えなかった。
泡は、海へ還るのだ。
昨日の鮮やかな色が薄いグレーを通り、
私の白へ還っていったように。
消えることと、還ることは違う。
そう思うと、その白い泡の道が、
今日という一日の先へ
続いているように魅えた。
行き着く先は、ここからはまだ見えない。
それでいい。
今見えている道を、心のままに歩いていこう。
大さん橋を戻る途中、
前を若い男の子たちが
楽しそうに話しながら歩いていた。
若いっていいな。
そう思って見ていたけれど、ふと気づいた。
あの子たちにも、それぞれの心模様がある。
それぞれの波があり、
それぞれの心ならしがあり、
それぞれの新しい朝がある。
この世界には、
そんな無数の心模様が生きている。
そして時折、
ひとつの心模様と、
もうひとつの心模様が触れ合う。
すれ違うだけのこともある。
ほんの少し重なることもある。
思いがけず響き合い、
互いの心に紋を残すこともある。
それが一期一会というものなのか。
それとも、出逢いの奇跡というものなのか。
たくさんの人が生きるこの世界で、
誰かと出逢い、
心を通わせ、
ほんの一瞬でも
互いの心模様を重ねられること。
それもまた、神様からそっと手渡される
贈りものなのかもしれない。
振り返れば、
海にはもう、
さっきの白い泡の道は見えなかった。
けれど、それでいい。
道は消えたのではない。
もう私の中へ還っている。
今日という一日の
最後のページがどこにあるのか、
まだ私は知らない。
だからこそ、楽しみになった。
今日もまた、
私だけの新しい紋を描きながら歩いていこう。
白い泡の道、朝へ続く✨
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