キュッ、キュッ。
足の奏でる音から、
ぽんと飛び出した「心ならし」という言葉。
そこから砂紋へ、
海に描かれた水の紋へ。
そして、心の中にも
「紋」というものが
あるのではないかと思った。
触れたものが残していく印。
私が生きてきた時間が残していく印。
そして、私という人間を
少しずつ形づくっていく印。
家紋のように受け継ぐものではなく、
生きながら自分で描いていく、
私だけの紋。
そうだ。
今日の「一筆入魂」は、
「紋」と書いてみよう。
そんなことを考えながら
帰り道を歩いていると、
雨がまた、しとしとと降り始めた。
傘3号を開く。
空色のシュシュをつけた、いつもの傘。
ポツ、ポツ。
ポツ、ポツ。
雨粒が傘の表面に当たり、
いくつもの小さな雫となって伝い落ちていく。
その様子を見ていたら、
今度は傘3号の上に水の流れが見えた。
砂に描かれた流れ。
海面を揺らした流れ。
そして今、私の頭上を静かに流れていく雨。
この曇った傘3号の向こうには、
これまでにもいくつもの記憶が蘇った。
昔の記憶は、
過ぎ去ったところで
止まっているのではないのかもしれない。
水のように今へ流れ込み、
今の私と重なり、
もう一度光を纏って心の中へ入ってくる。
そしてまた、私の紋になる。
そんなことを思いながら歩いていると、
プチッ。
プチッ。
何かを踏んだ。
足元を見ると、
銀杏の実がいくつも落ちている。
「あ、もう銀杏が落ちてる」
嬉しくなって木を見上げた。
実をつけた銀杏の木。
いつの間にか、
秋はちゃんとここまで来ていた。
秋かあ。
そう思った途端、
今度は新そばが頭に浮かんだ。
そろそろ、あの香りの季節。
まだ秋新には少し早いかもしれないけれど、
急に蕎麦の香りが恋しくなって、
朝そばのお店の前を通ってみた。
ところが、お休み。
そうだった。
今日は日曜日。
思わず笑ってしまった。
雨はだんだん本降りになり、
傘3号を叩く音も強くなってきた。
さて、今日の朝ごはんはどうしよう。
最近なぜかパンを食べる気にならず、
おにぎりばかり食べていたから、
用意していたご飯が
予定より早く減っている。
ゆで卵も数を間違えた。
今日食べたら、明日の分がない。
今回の横浜ステイ、
どうもいろいろ数が合わない。
まあ、いいか。
何もかも準備万端でなくてもいい。
足りなければ、
そのとき現地で見つければいい。
そんな少しアバウトなサバイバル感覚も、
旅のようで楽しい。
予定が崩れたからこそ、
いつもなら見なかった風景に
出逢うことだってある。
ホットサンドにしようか。
サンドイッチもいい。
クロックムッシュも捨てがたい。
そんなことを考えていたとき、
今朝ススキを見て思い出した、
あの兎が心の中をぴょんと跳ねた。
そうだ。
今日は、月見マフィンにしよう。
数日後には十五夜がやってくる。
月の光。
風に揺れるススキ。
そして、その中をぴょんと跳ねる兎。
今朝、言葉にしたいと思ったあの月の物語を、
今日はまず朝ごはんから迎えにいこう。
心ならしをして、
私だけの「紋」を見つけて、
秋の気配を拾った朝。
傘3号の上では今も、
雨粒が小さな水の流れを描いている。
さあ、月見マフィンを迎えに行こう。
その前に――交通系ICの残高だけは、
ちゃんと確認しておこう。
雨しずく
記憶をつなぎ
秋を知る
わが紋ひとつ
今日も重ねて
— Morimura
雨粒、秋を連れてくる✨
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