11時55分、お部屋を出た。
あら、いけない。
これは数分遅刻だわ。
でも今日は、スタートから
ご予約をいただいているわけではない。
今日の私のスケジュールは、
今朝の心模様と一緒に、
すっかり白へ還っている。
だったら少しくらい、のんびり行こう。
慌てずに。
雨の風景を楽しみながら。
外へ出ると、朝の豪雨が嘘のようだった。
ポツ、ポツ、ポツ、ポツ。
これくらいなら、雨の風情を楽しめる。
伊勢佐木モールの街路樹は雨を纏い、
深いところから滲み出すような
艶を放っていた。
モチおじさん。
なぞちゃん。
「行ってらっしゃい」
そんなふうに手を振ってくれている。
「行ってきます」
私も心の中で手を振った。
すると、風さんがやってきた。
ねえ、風さん。
姿は見えないけれど、
もしかしたらあなたって、
『鬼の花嫁』の小鬼ちゃんみたいに、
めちゃくちゃ可愛いんじゃない?
小さな姿になって、
私の肩へちょこんと乗る。
そして、
もし誰かが私をいじめようものなら――
びゅーん!
小鬼ちゃんの青い炎ならぬ、
風さんの一撃。
「ほら、それがあなたの武器なんでしょう?」
そう言った途端、
シューッ。
ビューン。
本当に風が強くなった。
「あらあら。分かった、分かった」
でも、この程度では
小鬼ちゃんの青い炎にはまだかなわないかな。
そんなことを考えながら歩いていると、
また少し風が強くなる。
今日は台風25号の影響で、
このあと天気はさらに荒れるらしい。
できることなら予定より早く駆け抜けて、
どこか遠くへ飛んでいってほしい。
明日の始発に影響が出たら困るもの。
私の未来の地図が変わってしまう。
もちろん、変わったなら書き換えればいい。
でも今回は、できれば書き換えたくない。
帰ると決めたのだから、
早く帰って、家でゆっくりしたい。
横浜7日間ステイ。
今日は最後の出勤日。
よりによって、台風接近の日。
ふふ。
まあ、これも私らしいのかもしれない。
外はこれから嵐。
でも私は、
いつもの場所で静かな時間を過ごしながら、
今日開くかもしれないドアを
待つことにしよう。
そう思ったら、
今度は「あの場所」が気になった。
昨日と同じ、いつものスペース。
空いているかな。
鬼の若様は、
大切な花嫁に鬼の気をつけているという。
だったら私も、
あの場所にずっと、
「私の気」をつけているのかもしれない。
だから、あそこへ行くと落ち着く。
誰かに決めてもらった場所でもないのに、
自然と身体も心もそこへ向かう。
私の小さな居場所。
そんなことを考えているうちに、
お店へ着いた。
さあ。
まずはゴミを捨てて、
鍵を返して、
それから今日の居場所を整えよう。
真っ白なスケジュールを抱えた、
横浜ステイ最後の出勤日。
外には秋雨。
その向こうには台風。
そして私の心には、
まだ朝から続く小さな恋がある。
さて――いつもの場所は、
空いているかしら。
秋雨に
わが気を残す
場所へゆく
白き一日に
色待ちながら
— Morimura
秋雨、居場所へ還る✨
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