お風呂上がりのオアシス時間。
目の前には、今日のお楽しみ。
月見マフィン。
さて、いただきます――。
その前に、私は包み紙をじっと眺めた。
月見というくらいだから、
私の中では勝手に「青」の世界を想像していた。
夜空の青。
群青。
その中に浮かぶ、まあるい月。
だから最初、
この緑の包みを見たときは少し意外だった。
でも、見れば見るほど面白い。
緑の中に描かれたいくつもの紋。
本当はススキを
あしらったものなのかもしれない。
けれど私には、
今朝、雨の中で見つけた波紋や、
昨日から心に残っているさまざまな紋まで、
そこに重なって魅了さえてきた。
そして、その世界に浮かぶ月。
いた。
うさぎちゃん。
でも、このうさぎは不思議。
「ほら、私を見て!」と
月の真ん中へ陣取るわけでもない。
月の隣で、
そっと寄り添うように踊っている。
ぴょん。
くるり。
また、ぴょん。
「主役はお月様ですよ」
そんなことを言いながら、
月の光を邪魔しないように、
自分は少しだけ脇へよけて
踊っているように見えた。
あら。
あなた、なかなか奥ゆかしいのね。
今朝、街灯を月に魅立てたときにも思った。
神様は、悲しいからうさぎを月
に残したのではない。
その優しい心を、
いつまでもみんなに
思い出してもらうために、
月へ残したのではないだろうか。
だとしたら、この小さなうさぎも、
月のそばで今日も踊りながら、
優しい気持ちを届けているのかもしれない。
「ねえ、うさぎちゃん」
心の中で声をかけてみた。
「今から私、
そのお月様をいただくんだけど……いい?」
うさぎが一瞬、
こちらを見たような気がした。
……。
あら。
もしかして、だめ?
でも、もう遅い。
包みを開いた。
そこに現れたのは、
まあるい卵のお月様。
その月を、
ベーコンのピンクと
パティの茶色が挟んでいる。
その間には、
橙色のソース。
そして最後に、
マフィンが全部をふんわり包んでいる。
なんだか今朝の私の心みたい。
群青があって、
緑があって、
透明があって、
銀白があって。
いろんな色が重なって、
最後には一つの世界になる。
では改めて。
「うさぎちゃん、いただきます」
ぱくり。
……。
あ。
お月様、食べちゃった。
うさぎちゃん、ごめん。
でも大丈夫。
月は空からなくならない。
今朝、私が食べた月は、
きっと私の中へ入っただけ。
そう思ったら、
なんだか可笑しくなってきた。
月を眺めるのも月見。
月を想うのも月見。
そして――月を食べるのも、
私にとっては月見なのかもしれない。
うさぎちゃんは、
まだ包み紙の中で踊っている。
ぴょん。
くるり。
ぴょん。
私はコーヒーをひと口飲みながら、
そんな小さな月の世界を眺めていた。
今朝は台風。
外では雨と風。
なのに私のオアシスでは、
月とうさぎと私で、
ひそかな月見の宴。
ふふ。
心って、
遊ぼうと思えば、
どこでだって遊べるのね。
月を食み
うさぎは踊る
朝の膳
心遊ばせ
月見の宴
— Morimura
番外編|心遊び 月を、いただきます🌕
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