「恋」という一文字を魅つめた。
一画目。
二画目。
そこには、思っていた以上に力があった。
墨をぐっと入れ、
迷うことなく進んでいく。
情熱。
そう呼びたくなるような、
生きる力そのものを感じた。
けれど、その力は
いつまでも重く留まってはいない。
筆はやがて軽やかに跳ね、
あちらへ、
こちらへ。
まるで今朝の私の心みたいだった。
群青へ飛び、
雨粒へ飛び、
海へ飛び、
遠い昔へ飛んでいく。
家族を思い、
月のうさぎと遊び、
玲夜の青い炎に胸を焦がし、
また風さんと笑う。
心は、どこへ行ってもいい。
そして下にある「心」
そこには少しかすれがあった。
整然とはしていない。
思いのままに舞い、
軽やかに流れ、
それでも最後には、
どこかできちんと止まっている。
最初は、それを「歯止め」なのかと思った。
でも違う。
きっと私は、
帰る場所を知っているのだ。
どこまで飛んでもいい。
どれだけ遠い昔へ行ってもいい。
物語の世界へ恋こがれてもいい。
思いきり心を遊ばせたら、
また今へ還ってくればいい。
だから私は、
安心して恋ができる。
そして文字の周りには、
ぽたり、ぽたりと墨の滴。
私にはそれが、
恋が通り過ぎたあとの余韻に魅えた。
一滴。
また一滴。
心に触れ、
小さな波紋をつくり、
やがて静かに溶けていく。
今朝、私はずっと考えていた。
私は恋をしている。
けれど、
恋を欲しがっているわけではない。
誰かに愛してほしいわけでも、
誰かを自分のものにしたいわけでもない。
胸の奥が、
ただ響いている。
トライアングルを鳴らしたとき、
音が手から腕へ伝わってくるように。
一つの音をコンサートホールが受け取り、
空間いっぱいに響かせ、
またこちらへ返してくるように。
海を見て響く。
雨に響く。
木々に響く。
物語に響く。
あなたを思って響く。
家族思って響く。
そして、
これまで生きてきた自分にも響く。
そんな一つ一つの響きを受け取るたび、
心が少し開いていく。
それを今日、
私は「恋」と呼んだ。
恋は、
美しいものだけを拾ってくるわけではない。
雨もある。
嵐もある。
悲しみもある。
思いどおりにならないこともある。
それでも心を閉じず、
触れて、
感じて、
響かせる。
そして最後には、
それさえ自分の中で
新しい「恋」へと昇華していく。
だから、この一文字を見て思った。
私は誰か一人に恋をしているのではない。
人生に恋をしている。
自分の心に恋をしている。
そして、
思いのままに、
精一杯――
生きていることに、
心が恋している。
今日の「恋」は、
誰かの名前を必要としない。
ただ自由に舞い、
世界と響き合い、
そしてまた今へ還ってくる。
そんな私の「恋」
墨が乾いても、
その響きだけは、
まだ胸の奥で静かに続いている。
恋の墨
心に響き
風となる
遠く舞いても
今へまた還る
— Morimura
一筆入魂|「恋」
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