白へ還ったスケジュールを前に、
静かな時間を1時間ほど過ごした。
時折、スマホから警報音が鳴る。
今日という日は、
やはり台風の中にいるらしい。
そして3度目。
また警報かと思ってスマホを見ると――
違った。
お仕事のメール。
あら。
白へ還ったばかりの私のスケジュールに、
さっそく色をつけに行くみたい。
そう思いながら、ホテルへ向かった。
雨は少し小降りになっていた。
ポツ、ポツ、ポツ、ポツ。
傘3号を叩く雨音を聞きながら、
今朝からの雨との時間を思い出す。
雨粒の中に、いろんな時代の私を魅た。
水たまりに落ちる雨粒には、
さまざまな心模様を魅た。
傘3号の曇りガラスでは、滴と戯れた。
そしてもう一つ、
「滴」から始まる寄り道を
しようと思っていたところへ、
お仕事が入った。
それはまたあとで。
ゆっくり、味わいながら書けばいい。
大通り公園を抜ける。
雨に濡れた木々の緑は、
私好みの深い艶を纏っていた。
そしてクスノキの下を通ると、
また心が遠い昔へ飛んだ。
楠木正成。
息子へ寄せた愛。
最後まで貫いた忠節。
その心の間を、
彼自身も幾度となく
うつろったのではないだろうか。
私はこの木の下を通るたび、
どこかに「もののあはれ」を感じる。
そして――本日最初のドアが開きました。
爽やかな笑顔。
初めて逢うあなたは、
とても気さくな人だった。
言葉が軽やかに行き交う。
初対面なのに、なぜだろう。
話が弾む。
それだけで今日の逢瀬のプロローグは、
ずいぶん柔らかなものになった。
少し年下のあなた。
けれど落ち着いていて、
社交的で、
優しくて。
自然にエスコートされていることが、
なんだか心地よかった。
私から、そっと触れる。優しく。
ゆっくり。
その気持ちが伝わっていることが嬉しくて、
私の心まで少しずつほどけていった。
「綺麗だね」「かわいいね」
そんな言葉をもらうたび、
あら。
私、舞い上がっているのかしら。
そして今度は、
あなたから返ってくる温もり。
たくましい腕に包まれながら感じたのは、
力強さよりも優しさだった。
気づけば私は、すっかり甘えていた。
また「かわいい」と言われて、
ふふ。
素直に嬉しくなっている私までいた。
外には雨。
部屋の中には、柔らかなオレンジの灯り。
甘く、
少し妖しく、
それでも穏やかな雨の時間。
今朝、白へ還った私の心に、
最初に宿った色は、橙だった。
やがて時間が終わり、外へ出た。
すると――ザーッ。
さっきまでの穏やかな雨はどこへやら。
豪雨。
少し歩いただけで靴はびしょ濡れ。
足元からは、
ぐちゅ。
ぐちゅ。
ああ、もう。
さっきまで橙色の光に包まれていたのに。
でも、どうやら次のご予約も
いただいているらしい。
雨宿りしている暇はない。
橙色をひとつ心に残し、
私は再び豪雨の中へ飛び出した。
真っ白だった今日の一枚に、
最初の色がついた。
さて。次に待っているのは、
いったい何色なのだろう。
白き日に
橙ひとつ
灯りたり
雨をくぐりて
次の色待つ
— Morimura
白に、橙ひとつ宿る✨
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