白が好きだ。

何色にも染められていない。
まだ何も描かれていない。

だから私は、
白を見ると「何もない」とは思わない。
むしろ、その反対。
これから何かが始まる。
そんな予感がする。

白には清々しさがある。
清潔感がある。
白いものを身につけると、
なんとなく気持ちまでシャキンとして、
背筋がすっと伸びる。

けれど、白は案外難しい色でもある。
ごまかしがきかない。
だからこそ、
私はあえて挑んでみたくなる。

冬になると、
街には黒や濃い色のコートが増えていく。

そんな季節に私は、
あえて白を着たくなる。

パステルピンク。
パステルグリーン。
ベージュ。

冬だからこそ、明るい色を纏いたい。

その中でも白は、
私にとっていちばん明るい。

光を跳ね返しながら、
自分まで外へ向かって
輝かせてくれるような気がする。

そして私は、真っ白な紙も好きだ。
何も描かれていない一枚を目の前にすると、
困るどころかワクワクする。

さて。

ここに何を描こう。

頭の中にあるものを、
まずひとつ置いてみる。
書いてみる。
考えてみる。
また書く。
違うと思えば直す。

直しているうちに、
最初にはなかった何かが浮かぶ。
ならば、それも置いてみる。
また考える。
また直す。

そうしているうちに、
白かった場所に
少しずつ私の世界が現れてくる。

私は完成した世界を見るのも好きだけれど、
もしかすると、
それ以上に好きなのは
何もなかったところから
形が生まれていく時間なのかもしれない。

今日だって、そうだった。
「日記のネタがないな」
そんなところから始まった。

つまり、そこにはまだ何もなかった。
真っ白だった。

ところが、ひとつ言葉を置いた。
すると余白から径が生まれた。

その径を歩いていたら、水の音が聞こえた。
その音を追いかけていたら、
今度は色が見えてきた。
そして私は今、白について語っている。

あら。

何もなかったはずなのに。

気づけば、こんなにも世界が広がっている。
だから私は、白が好きなのだと思う。

白は完成ではない。
始まり。
まだ何色でもないから、
何色にだってなれる。

まだ何も描かれていないから、
どんな世界だって描ける。

そして私はきっと、
これからも真っ白な場所を
見つけるたびにワクワクする。

何を描こう。
どこから始めよう。

そう考えながら、
ひとつ書いて、
またひとつ書いて、
直して、
考えて。

やがてそこに、
私にしか描けない世界をつくっていく。


白き紙
まだ名もなき色
抱きしめて
ひと筆ごとに
私が生まれる

— Morimura