台風だから、
今日はこのままずっと静かなのだろう。
そう思いながら、
私はひたすら日記を書くのに大忙しだった。
こんな日は睡眠貯金でもすればいいのに。
ひとつのことを思い浮かべては心が旅をして、
それを言葉に乗せて綴っていく。
すると、そこからまた
別のイメージが生まれる。
それが楽しくて、楽しくて。
いつの間にか台風のことさえ忘れ、
すっかり自分の世界に没頭していた。
気づけば、22時を過ぎていた。
そろそろ日記をまとめて、帰り支度をしよう。
そう思っていた、そのとき。
お店からメールが届いた。
え?
思わず画面を見直した。
どうやら、閉じたつもりだった今日には、
まだもう一つドアが残されていたらしい。
外へ出ると、雨は止んでいた。
台風が通り過ぎたあとの街には、
思っていたほど大きな爪痕も感じられない。
路面だけが、
まるで打ち水をしたあとのように
しっとりと濡れている。
そこを渡ってくる風が少し涼しい。
そんな夜の街を歩き、ホテルへ向かった。
そして、最後のドアが開きました。
ノックをしてもなかなか返事がなく、
少し心配していると、
シャワーの途中だったあなたが
慌てて出てきてくださった。
そのとき魅せてくれた、
さっぱりとした爽やかな笑顔。
初めて逢うあなたなのに、
とても気さくで、お話好き。
言葉を交わしているうちに、
初対面だったことを
忘れてしまいそうなくらい
自然に笑っていた。
人懐っこい笑顔。
明るい声。
そして、そっと伝わってくる優しさ。
私はあなたに触れた。
温もりを感じながら、
時折おしゃべりをして、また笑う。
「すごく気持ちいい」
そう言ってもらえるたび、
私まで嬉しくなった。
あなたの優しさに包まれながら
過ごした時間は、どこか温かかった。
この人を色にするなら、何色だろう。
ふと、そんなことを考えた。
黄色。
そう。
私の大好きな、ひまわりの色。
眩しすぎる黄色ではなく、
そっと人を温めるひだまりの色。
今日一日、空には
台風の色が広がっていたはずなのに、
その最後に待っていたのは、
こんなにも温かな色だった。
あなたとの時間は、
まるでひだまりのようだった。
ありがとう。
「また時間が合えば呼んでくださいね」
そう言ってお別れした。
外へ出ると、
風は来たときよりさらに爽やかになっていた。
風さん。
今日はずっと静かなまま
終わると思っていたのに、
最後にひだまりみたいな時間を
過ごしてきたわ。
――よかったじゃないの。
そうね。
台風も、もう遠くへ行ってしまったみたい。
明日の朝も、
いつものように動き出せそう。
そう思うと、心までほっとした。
――だから、そんな顔をしているんだね。
そうかもしれない。
一日の物語は、もう閉じたつもりだった。
けれど人生というものは、
ときどき閉じた表紙をもう一度そっと開いて、「もう一頁だけ、どうぞ」と
差し出してくれるらしい。
今夜そこに綴られたのは、
嵐ではなく、ひだまり色の一頁だった。
さて、風さん。まだ帰り支度が残っているわ。
――じゃあ、帰ろう。
そうね。
一緒に帰ろう。
雨あがり
最後の扉
ひらく夜
ひだまりひとつ
胸に灯して
— Morimura
余話|嵐のあと、ひだまりひとつ✨
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