台風が来ることは、
出勤前からわかっていた。

今日はきっと暇になる。
ならば――。
まず、日記をいっぱい書こう。
それから若様の扉も開こう。
それでも時間が余ったら、睡眠貯金。

よし。

なかなか素晴らしい計画ではないか。

今日は時間もたっぷりありそうだから、
いつもよりかなり多めに、
1時間半に一篇くらいのペースで
アップしてみよう。

あと三つ。
いや、四つ。
五つくらい書けたら上出来かな。

そんな軽い気持ちで、
本日の営業は始まった。

家にいるなら、暇を見つけた途端に、
「あれも片づけよう」
「これもやっておこう」
となる私だけれど、
お店ではそうはいかない。

パソコンは持ってきていない。
できることといえば、
少し買い物へ行ったり、
郵便局や銀行へ行ったり、
外の用事を済ませるくらい。

ところが今日は大雨。

はい、外出も却下。

それなら日記を書いて遊びましょう。

ここまでは予定通りだった。

ところが――。

一篇書いた。

すると、「次、私です」と、
何かがやって来た。
それを書いたら、「私もいますけど」と、
また何かが顔を出す。

あら。
では、あなたもどうぞ。

ひとつ書けば、またひとつ。
ひとつ思いつけば、
その向こうからまた別の何かが顔を出す。

気づけば私の頭の中は、
台風の日とは思えないほどの大賑わい。

そして、まさかの展開が始まった。
小径が増殖し始めたのである。

私はてっきり、
今まで歩いてきた小径へ入り、
その中身を増やして
遊ぶだけだと思っていた。

ところが、言葉の小径。
音の小径。
色の小径。

あれ?

新しい径をつくっちゃった。

しかも、そこでまた思った。
何も、すべての小径を
シリーズとして
育てなくたっていいんじゃない?

その日にふっと見つけて、
その日だけ歩いて、
そこで終わる小径があってもいい。

一回限りの小径。

なんだか、それも面白い。
そう思った途端、
私の頭の中には、
まだ名前さえついていない細い径が、
あちらこちらへ伸び始めた。

外は大雨。
お店は静か。
なのに――私の頭の中だけ、本日大盛況。

そして、そろそろ閉店時間。

余白番が言う。
「店長、本日の営業、
そろそろ終了いたしまーす」
すると私は、
「ちょっと待って。
あと一個、終わりそうだから」

そして、もう一言。
「若様だけは入れてあげて」……。

どうやら本日も、
私の頭の中に
ラストオーダーというものはないらしい。

日記さま、いらっしゃい。
新しい小径さまも、どうぞ。
若様?
もちろん、お入りください。

睡眠貯金さまは――申し訳ございません。
本日も窓口終了でございます。

— Morimura