眠たい私と、まだ遊びたい私 —

「もう閉店しようよ」眠たい私が言った。

「えー、まだ早い」
まだ遊びたい私が答えた。

「早くない。眠たいでしょう?」
「眠たい」
「疲れてるでしょう?」
「疲れてる」
「じゃあ寝ようよ」
「でも……」

ほら。

この「でも」が出たら、だいたい終わらない。

今日の私の頭の中を覗いてみる。

朝から、
ずいぶんいろんなものが
出たり入ったりしていた。

白へ還った心がいて、
おはぎがいて、若様がいて。
ちょっと眠ろうと思ったはずなのに、
若様の扉を開けてしまい、
そのままソファで寝落ちした私もいる。

目が覚めれば、今度は空。
龍がいた。
犬もいた。
雲は何にもならないはずなのに、
私の心の中では何にでもなった。

そして気がつけば、
十四代の一升瓶まで、ドーン。
あらまあ。
今日はずいぶん賑やかな店内ですね。

夕方になれば家族との食卓が始まり、
思いがけない言葉に心が温まり、
夜になれば月までやってきた。
しかも、その月を見て、
「あ、若様の目」……また若様。

あなた、今日何回登場するのよ。
「ということで、本日の営業は終了です」

眠たい私が、入口に札を掛ける。
本日閉店。
よし。
これで寝られる。

ところが――
「ちょっと待って」
まだ遊びたい私が、
札の向こうから顔を出す。

「何?」
「一日の振り返りがまだ」
あ。
そうだった。
「それを書いたら寝る?」
「うん」
「本当に?」
「たぶん」
怪しい。
ものすごく怪しい。

だって、そのあとにはきっと、
若様が待っている。
「少しだけだから」
はいはい。
その「少しだけ」が、
いちばん信用できないのよ。

眠たい私と、まだ遊びたい私。
どうやらこの二人、
今日も決着はつきそうにない。

それでも、そろそろ灯りを落とそう。
今日という一日は、
もう十分すぎるほど遊んだ。
十分すぎるほど感じた。
そして十分すぎるほど、心を動かした。

さあ。
本日の営業は、これにて終了。

……のはず。
でも私の頭の中には、
どうやら今日も、
ラストオーダーというものがないらしい。

— Morimura