昨夜、
私は確かに一日を閉じたつもりだった。

最後の文章を書き、
長い歌を添え、
その余韻をもう一首に結んだ。

画像もできた。

ああ、今日も終わった。

満足、満足。

そう思って、そのまま眠りへ落ちた。

若様の世界へ行くつもりだった。

ほんの少しだけでも、
あの青い炎に包まれてから眠りたい。
そう思っていたはずなのに。
どうやら身体の方は、
私より先に決めていたらしい。
今日は、もうおしまい。

若様への想いも、
最後まで遊びたい心も、
全部まとめて睡魔に預けてしまった。

そして今朝。

目を覚ましたら、
いつもの朝よりずいぶん遅い時間だった。

あら。
やってしまった。

でも、それだけではなかった。

昨夜ちゃんと
送り出したつもりだった
最後の物語を見ようとページを開く。

すると――まだ、そこにいた。

最後の一歩。
投稿する、その一歩手前で止まっていた。

昨日が、まだ終わっていなかった。

無念。

そう思いながら、
もう一度文章を読み返した。

すると、一つの言葉に目が止まった。

昨夜は、そのまま通り過ぎた言葉。

けれど今朝は、なぜか引っかかった。

あれ?

この言葉、本当はどういう意味なんだろう。

そう思って確かめてみると、
私が思っていたものとは少し違っていた。
意味を知って、
もう一度、長い歌から読み返してみた。

すると不思議だった。

昨夜、自分で綴ったはずの言葉なのに、
今朝は、昨日よりずっと深く心に染みてきた。

すると、遠い日の小さな声が、
ふっと蘇った。

そこからまた一つ。
もう一つ。

記憶の扉が勝手に開いていく。

探しに行ったわけではない。
思い出そうとしたわけでもない。
ただ今朝の心に触れた言葉が、
遠いところから何かを連れてきた。

そうしているうちに、
いつもの朝はどんどん遠ざかっていった。

もうこんな時間。

普段なら、今日は無理。
そう言って、
朝歩きを諦めていたかもしれない。

けれど今日は、不思議とそう思わなかった。

遅くてもいい。
今から歩こう。
今日は、急がなくてもいい朝なのだから。

玄関の扉を開けた。

雨だった。
知らなかった。

目の前の中庭には、雨に濡れた木々。
吹き抜けから差し込む淡い朝の光を受けて、
葉の一枚一枚が、ぼんやりと輝いていた。

派手な光ではない。
誰かが美しく見せるために当てた光でもない。

雨と、朝の光と、木々。

ただそれだけ。

なのに、きれいだった。
いや。だからこそ、
きれいだったのかもしれない。

光。
緑。
雨のしずく。

その一枚を、私は目に焼きつけた。

そして歩き始めた。
いつもの時間ではない道を。
いつもの予定ではない朝を。
その先で何を見るのかも知らないまま。

たくさん立ち止まった。
心も、あちらこちらへ旅をした。
もっと先まで歩こうと思っていた。

けれど途中で、今日は帰ろう、と決めた。
もう少し歩きたい。

でも、帰る。

不思議なくらい迷わなかった。

スパッ。
ひとつ決める。

また、スパッ。
次を決める。

頭が冴えているというより、
心が切れている。
そんな感じ。

そして家へ戻れば、ちゃんと間に合った。
時間にも余裕ができた。
お風呂にもゆっくり入れた。

このあと始まる今日のことにも、
慌てず向き合える。

もし、「せっかく歩きに来たんだから」と、
あのまま
予定していたところまで歩いていたら。
きっとまた私は、
時計を見ながら慌てていただろう。

今朝は、
予定どおりにできなかったことが
たくさんある。

昨夜の最後の一歩も。
目覚めた時間も。
雨も。
歩いた距離も。

それなのに今、
不思議なくらい、これでよかった。
そう思っている。

予定から外れたたびに、
そのときの私が、
「じゃあ、こっち」と道を選んだ。

そして選んだ先には、
予定していなかった時間と、
予定していなかった風景が待っていた。

だから今朝は、
遅れた朝ではなかったのかもしれない。
私が今日の私に合う速さを、
ひとつずつ選び直していた朝。

昨日は、今朝ようやく終わった。

そして私は、そのまま今日を歩き始めた。
急がなくていい。
全部を一度にやらなくていい。

その瞬間に、自分の心が指した方へ。
今日はなんだか、
それを迷わず選べる気がしている。