朝の物語をいったん閉じた。

そして「森村営業開始」のページを
上げようとしたところで、
今度は画像につまずいた。

タイトルの位置がどうにも気になる。
少し上すぎる。
いや、もう少し下。
ここなら見える。
でもまだ少し影にかかっている。

そんなことをしているうちに、
しばらくその場で立ち止まってしまった。
ふと時刻を見ると、もう6時半を回っている。
これはまずい。
ここはいったん諦めよう。

そう思って、急いで家へ帰った。
お風呂に入り、着替えて出ていくと、
私の姿を見た家族が笑った。
「運転練習だから、ジャージだと思ってた」

そう。
下はブラックデニムだけれど、
上はきちんと感のあるブラウス。
普段ならデパートにも
アディダスで行く私なのに、
今日は定例会がある。

「やっぱり定例会に行くから、
今日はジャージじゃないのね」
そんなふうに言われて、
朝からまた笑った。

予定より少し遅れて、
今日も運転練習のお付き合い。

もう何回、隣に乗ったことだろう。
最初の頃に比べると、
横で見ていても
ずいぶん落ち着いてきたように思う。

「だいぶ上手になったんじゃない?」
そう言うと、
家族も少し安心したような顔をしていた。
「なんか、不安がなくなってきた」
そんな言葉を聞くと、
なんだか嬉しかった。

忙しいときには、
正直ちょっと面倒だなと思うこともある。
でも私は、
ただ隣に座っていただけなのかもしれない。
それでも、
その「ただ隣にいる」という時間が、
家族にとっては
安心につながっていたのだろう。

そして気づけば、
その時間は私にとっても、
心の力を抜けるひとときになっていた。

今日も朝マックへ行こう、という話になった。
家族は、
ずっと月見マフィンを食べている私に
気を遣って、
「今日も朝マックでいいの?」と聞いた。
私は思わず笑った。

「あなた、まだ私の性格わかってないの?
私、好きなものは
毎日でもとことん食べるタイプでしょ?」
「ああ、そうだったわね」
また二人で笑った。

こうなったら、
十五夜まで毎日月見マフィンでも
いいんじゃないかと思ってしまう。

あの緑のパッケージ。
そこに浮かぶ月。
そして、その月に寄り添うように佇むうさぎ。
どこか懐かしくて、
心のふるさとのような景色。
あれを見ると、なぜかほっとする。

月見マフィンはいつまであるんだろう。
そう思って聞いてみると、
今週いっぱいは大丈夫だという。
それなら、まだしばらく楽しめそうだ。

今日の定例会は9時半から。
連休明けだから、
みんな少し慌ただしいのだろう。

私にとっては、運転練習の日でもあるから、
少し遅めの時間でちょうどいい。
ただ、家族と朝マックに入ると、
どうしても話が弾んでしまう。
きっと今日も、
あれこれ話しているうちに時間が過ぎる。

だから今日は、
そのまま家族にも
付き合ってもらうことにした。
定例会はすぐに終わるから、
少し車の中で待っていてもらう。

そのあと会社へ行くときも、
近くでまた待っていてもらうつもり。
そんな予定を話していても、
家族は嫌な顔ひとつしなかった。

そして横で、ぽつりと言った。
「今回は、ずっと一緒だったね」
その一言に、私は少しだけ考えた。
そうだったかな。

ああ、そうだ。

今回は家にいた日も、
人間ドックのプロローグがあったから、
おとなしくしていた。
連休の中でもあった。
だから、
特別なことをしたわけではないけれど、
確かにずっと同じ空間にいた。

一緒に食べて。
ときどき話して。
何も話さず、
それぞれ違うことをしている時間もあって。
でも、同じところにいた。
それを家族が、
そんなふうに嬉しく
感じていてくれたのだと思うと、
私まで嬉しくなった。

そして同時に、
少しだけ、別れが寂しくなった。
でも、まだあと3時間ほどある。
だったら、その時間を大切にしたい。

同じ空間で、同じ空気を吸って。
ときどき言葉を交わして。
互いを気にかけて。
そして一緒にお昼ご飯を食べる。
何か特別なことをしなくてもいい。
何もいらない時間を、ただ一緒に過ごしたい。
そんなふうに思った。

ふと空を見上げた。
秋の空は、本当に澄んでいる。
雲まで光って見えた。
そして山の稜線には、
なんだかクロールをしているような雲がいた。

腕を大きく回して、すい、すい、と。
どこかへ向かって泳いでいる。
私、クロール得意なんだけどな。
なんて思いながら、その雲を眺めていた。

あの雲は、どこへ行くんだろう。
そう思った瞬間、答えはすぐに浮かんだ。

きっと横浜。
私の心も、もう半分。
いや、半分よりもう少し。
横浜へ向かい始めているのかもしれない。

けれど同時に、
このまま家族と一緒にいたい。
もう少しこの家にいたい。
そんな気持ちも、ちゃんとここにある。

一緒にいたい。
でも、泳いででも横浜へ行きたい。
どちらも嘘ではない。
どちらも本当。

その二つの気持ちの間を、
秋の風に吹かれながら、

ゆらゆら。
ゆらゆら。

私の心は、静かに移ろっている。
クロールする雲のように。
帰る場所を残したまま、
それでも次の場所へ向かっていく。

そんな心の揺れに、
私はまた、もののあはれを感じていた。

風が吹く。
雲が流れる。
心もまた、流れていく。

それでいい。
今の私は、この移ろいごと抱いて、
次の場所へ向かえばいい。

秋空に
クロールの雲
横浜へ
残る心も
風にゆらめく

— Morimura