電車に乗ったら、
若様に逢いに行こうと思っていた。

でも、いざ座ってしまうと、
ものすごく眠たい。

青い炎を感じる暇もなく、
気づけばほとんど寝ていた。

しかも三人席の真ん中には人が座っていて、
なんだかずっと窮屈。

電車の中はエアコンがよく効いていて、
今度は寒い。
寝返り……というより、座り返り。

右へ。

左へ。

少し姿勢を変えてみたり。
何度もごそごそ動いていたから、
結局あまり寝た気がしなかった。

それでも電車は、
ちゃんと横浜へ向かって進んでいた。

そして、3日ぶりの横浜。

たった3日。

でも、なんだかずいぶん久しぶりに
戻ってきたような気がした。

なぜだろう。

きっと、離れていた時間が
とても濃かったのだと思う。

家族と一緒に過ごし、

話し、

笑い、

運転練習に付き合い、

朝マックを食べ、

何でもない時間を同じ空間で過ごした。

ほんの59時間ほど。

けれど、

心の中では
もっと長い時間を旅していたような気がする。 

地下鉄に乗り換え、最寄駅へ。

エレベーターに乗り、
ゆっくり地上へ上がっていく。

扉が開いた。

「ああ、着いた、着いた」

思わず心の中でつぶやいた。

帰ってきた。

見慣れた地下鉄の駅。
見慣れた街並み。
見慣れた空気。

59時間前、私は確かにここに立っていた。

あのときは、
心の渡り廊下を通り抜けるような気分で、
この場所をあとにした。

そして59時間後。
今度は、その渡り廊下を反対側から歩いて、
またこちらへ戻ってきたみたい。

ふと思った。

心の渡り廊下の有効期限は、
60時間以内だったりして。

あと1時間遅かったら、
扉が閉まっていたのかしら。

なんて。

そんなくだらないことを考えながら、

ひとりで少し笑った。

でも、不思議なものだ。

ほんの少し離れていただけなのに、

「ただいま」と言いたくなる。

私の部屋は、そのままだろうか。
置いてきたものも、
空気も、
時間も、
ちゃんと私を待っていてくれただろうか。

そして今日、お逢いするあなたたちは、
お変わりないだろうか。

18:00からご予約くださったあなた。
いつもありがとうございます。
今日も楽しく飲んで、食べて、歌って。
いつものようにビールをくるくる回しながら、
たくさん笑いましょう。

22:00からご予約くださったあなた。
いつもありがとうございます。
あなたのやさしさに包まれながら過ごす時間。
今からとても楽しみにしています。

家族と抱き合って家を出た私が、
今度は横浜で、
また別の人たちとの時間へ向かっていく。

心は、ぱちんと
切り替わるものではないのだと思う。
さっきまで抱いていた
家族への想いが消えるわけでもない。
家に置いてきた心を忘れるわけでもない。

それらを抱いたまま、
心だけが少しずつ、
ひとつの場所から、
もうひとつの場所へ移っていく。

59時間前に渡った廊下を、
私は今、もう一度こちら側へ戻ってきた。
少しだけ眠たい。
少しだけ疲れている。

でも、心はもう、
これから始まる時間へ向かっている。

ただいま、横浜。

今日からまた、ここで私の物語が始まる。

ただいまと
心の廊下
渡りきて
待つ人のもと
また時ひらく

— Morimura