まだ夜でありながら
もう朝でもある
そんな時間が
私は好きだ
月は
夜を手放しきれずに
空の片隅へ残り
太陽は
まだ姿を見せぬまま
遠いところから
光だけを送り始める
どちらが主役なのか
決めなくてもいい
月が消えてから
太陽が昇るのではなく
ほんのひととき
ふたりは
同じ空にいる
夜と朝
闇と光
静けさと目覚め
終わるものと
始まるもの
その境には
一本の線など
引かれてはいなかった
色は少しずつほどけ
群青は
薄い藍へ
藍は
淡い紫へ
そして
どこからともなく
桃色が混じり
金色が差し
空は
昨日でも今日でもない色になる
私はその中を歩く
まだ眠っている街を抜け
風の音を聞き
鳥の声を待ちながら
時間から
少しだけ外れてゆく
急がなくていい
朝にならなくてもいい
夜へ戻らなくてもいい
ただ
このあわいにいればいい
月を見送りながら
太陽を待つ
けれどそれは
何かを失って
何かを得るということではない
月がくれた静けさを
胸に残したまま
太陽の光を
迎えればいい
夜の私も
朝の私も
どちらも
私なのだから
生きるということも
きっと同じなのだろう
終わりと始まりを
きれいに分けることなどできない
ひとつの季節が
次の季節へ溶け
ひとつの思いが
次の思いへ渡ってゆく
その途中にある
名前のつかない時間
私はそこを
「あわい」と呼びたい
白でもなく
黒でもなく
月でもなく
太陽でもなく
けれど
そのどちらもが
確かにここにある場所
私の心もまた
そんなふうに
揺らぎながら
少しずつ
今日へ向かってゆく
やがて
月の輪郭が薄くなる
そして
東の空が光を増してゆく
私は振り返らない
月は消えたのではない
見えなくなっただけ
太陽もまた
突然生まれたのではない
ずっと向こう側で
こちらへ来る準備をしていた
そう思えば別れも
出逢いも
ほんの少し
やさしくなる
月と太陽のあわい
そこは
何者かにならなくてもいい
わずかな時間
私は今日も
そこを歩く
まだ名のない光を
頬に受けながら
夜を抱いたまま
朝へゆく
— Morimura
「月と太陽のあわい」
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