大きなものだけが
心を動かすのではなかった
朝陽でもなく
海でもなく
風でもなく
掌にのるほどの
小さなひとつが
ぱり、と
音を立てた瞬間
心のどこかでも
同じ音がした
そして
もち、と
ほどける食感の奥から
やわらかな甘みが
少し遅れて
追いかけてくる
それは
声を上げるほどの
大きな感動ではない
ただ
ああと
心の奥に
小さな灯りがともる
それだけ
けれど私は知っている
こういう一瞬ほど
ふとしたときに
蘇ることを
朝の空が
群青から桃色へほどけたとき
海の上に
光の道ができたとき
風が
髪をさらっていったとき
雲のかたちに
足を止めたとき
そして小さな甘味を
ひと口かじったとき
心が震えたということでは
きっと
どれも同じなのだ
感動に
大きさはいらない
どれほど
小さくても
心が
そこに立ち止まったなら
それだけで
ひとつの物語になる
ぱり
もち
そして
あとに残る
ほのかな香り
ほんの短い時間なのに
その余韻は
思っていたより
ずっと長く
私の中に
残っている
だから私は
今日のこの小さな感動も
なくしてしまわないように
心のポケットへ
そっとしまっておこう
朝陽も
海も
風も
そして
小さな甘味も
私の心を震わせたものは
みんな
同じ場所へ
還ってゆく
— Morimura
甘味の小径より|余詩 「小さきものに、心は震ふ」
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