お店に着いて、今日の居場所を整えた。
そして、ゴロン、と横になった私。

さて、どうしよう。
アイマスクをつけて暗がりの世界へ行くか。
それとも、鬼の若様の扉を開いて、
しばし漆黒の世界へ行くか。

そんな贅沢な二択に迷っていたところで、
気づいた。
——アイマスク、忘れてきた。

あら。
これでもう、悩む余地はない。
眠たーくなるまで、
若様の漆黒の世界で遊ぶことにしよう。

久しぶりに若様の扉を開いた。
久しぶり、といっても、
たった2日ぶりくらいなのだけれど。

それでも画面の向こうに若様が現れると、
胸はちゃんとキュンとなる。
ドキドキしながら、
食いつくようにスマホの画面を見つめていた。

確か、13時半くらいから
扉を開けたような気がする。

ところが。

いつの間にか、
若様の漆黒の世界から暗がりの世界へ、
ぽーん、と放り出されていたらしい。

気づけば眠っていた。
そして目を覚ましたら、
15時半になっていた。

若様の扉を開けてから、
ちょうど2時間ほど経っていたことになる。

けれど、そのうちどれくらい
若様の世界を楽しんでいたのか。
いつから漆黒の世界を離れ、
暗がりへ放り出されていたのか。
さっぱりわからない。
でも、よく眠ったような気がした。

目を覚まして、
少し外の空気を吸いに出る。

そうだ。
次は日本酒の小径を書こうと
思っていたんだった。
けれど、なんとなくその前に、
今日という日の続きを綴りたくなった。

待機に入ってから、
そろそろ3時間になろうとしている。

なんだか今日は、
このまま静かな時間が
流れていきそうな気配がしている。

外はとてもいいお天気。
こんな日に外を自由に歩けないのは、
ちょっと残念。

けれど。

今日の一筆入魂ではないけれど、
こういう余白な時間があると、心が休まる。

いや。

心以上に、頭が休まる。
ぼーっとしていると、
不思議なくらいいろいろなことが
浮かんでくる。

今回の横浜ステイは30日までだったな。
その次に横浜へ来るのは、
何日後だったかしら。

月末に入るから、
会社の仕事で、
やらなくてはいけないこと、
何か抜けていないかな。

あ。

明日は美容院だった。
ということは、
朝はあまりゆっくりできない。

何を着て行こう。

1日の朝には帰るけれど、
その日の予定はどうなっていたっけ。

「逢いに行くよ」と
言ってくださっているあなたは、
いつになるのかな。

それから、予約を入れてくださって、
食事に連れて行ってくださると
言ってくださった
あなたとの時間も楽しみだな。

ひとつ思い浮かぶと、
その先からまたひとつ。
頭の中を、いろんなものが行ったり来たりする。

朝のウォーキングの時は、
こんな現実的なことではなく、
魅ることより、
天空で繰り広げられるドラマと、
その向こうにあるものを心で感じて、
言葉に乗せた。

ところが今は、その思いが地上に舞い降りて、
かなり現実的なことを考えている。

でも、それもまた面白い。
「あ、そうだった」
「あれ、どうなっていたかな」と、
ふっと浮かんできたことを、
手帳で確認したり、
スマホで調べたり、
思い出したことを具体的なイメージとして、
自分の日々と重ね合わせて
捉えることができる。

忙しい時は、
思い出すだけで終わってしまい、
「あ、あれをしなくちゃ」と思ったところで、
次のことに追われる。

そしてその「あれ」は、
宙に浮いたままになる。

ひとつ。
またひとつ。
小さな用事や気がかりが、
頭の中のどこかに浮かんだままになっている。

でも余白があると、
その宙に浮いたものを拾うことができる。

これはここ。
こっちはあそこ。
そうやって、自分の中の引き出しへ、
一つずつ意味を持ってしまっていける。

ああ。
余白って、
こういうためにも必要なんだ。
何もしていない時間ではない。

むしろ、忙しい時間の中では
片づけられなかったものを、
静かに元の場所へ戻している時間
なのかもしれない。

予定を詰め込むことばかりが、
効率ではない。
少し余白を残して計画を立てた方が、
物事はかえって確実に、
きれいに、
最後までやり切れるのかもしれない。

そんなことを思った。

ねえ、風さん。
あなたもそう思うでしょう。

今日はあなたに逢えるの、
もう少し先になりそうね。
それとも……帰るときだったりして。

ん?ということは。
まさか。
今日……坊主?

チーン。

まあ、それならそれで。

今日の私は、
若様に胸をときめかせ、
よく眠り、
頭の中の引き出しまで少し整理できた。
これはこれで、
悪くない一日なのかもしれない。

そして私は、
静かな午後の続きを過ごしながら、
そろそろ——日本酒の小径の扉を開ける。

余白には
浮かぶ想いを
受ける場所
ひとつしまえば
心また空く

— Morimura