あなたのお姿をお見送りしたあと、
引き続きご予約をいただいていたので、
次のホテルへ向かおうとした。

そのとき、ふと空を見上げた。
月が見えた。
今夜は十五夜。
吸い込まれそうなほど美しい月だった。

次の時間まで、あと10分足らず。
私は急ぐことをやめて、
その場に立ち尽くした。

ただ、ずっと空を見上げていた。

なんだか不思議な感じがした。
こんなにも、
とことん十五夜の月を愛でたことが、これまであっただろうか。

眩しいほどの光。
息をのむほどの美しさ。
そして、
どこか人の手の届かないところにあるような
神々しさ。
見れば見るほど胸が高鳴った。
ただ月を見ているだけなのに、
どうしてこんなにも心が動くのだろう。

その答えを探すこともせず、
私はしばらく月の光の中にいた。
ほんの10分足らずの時間。

けれど、その短い時間だけ、
時計の針が止まったような気がした。

そして、その高ぶった心をそのまま抱えて、
最後のドアへと向かった。

ドアが開いた。久しぶりに逢えることが、
私もすごく嬉しかったあなた。

まるで、「待ってたよ」と言わんばかりに、
ドアの向こうから満面の笑顔で
飛び出してきてくださった。
そして、そのまま私の肩を抱き、
お部屋の中へ招き入れてくださる。

そうだった。あなたはいつも、
こんなふうに大歓迎で
迎えてくださる人だった。

その懐かしさに触れた瞬間、
嬉しさが一気にこみ上げてきた。

今夜、あなたに逢えるとは思っていなかった。
だからなおさら、
この再会が嬉しかった。

さっきまで見上げていた十五夜の月。
もしかするとこれは、
あの月が私にそっと渡してくれた
ご褒美なのかもしれない。
そんなことを思った。
 あなたとは、初めて逢った頃から
変わらないことがある。
いつもソファに横並びに座ること。
そして、「飲もう、飲もう、飲もう」と
笑いながら、
まず乾杯すること。

グラスを合わせて、
逢えなかった時間を少しずつ埋めていく。

その間にあったこと。
最近のこと。
嬉しかったこと。
ちょっと困ったこと。

そんな話をひとつ、
またひとつと聞かせてもらう。

考えてみれば、それはもう、
私たち恒例のプロローグに
なっているのかもしれない。

久しぶりだからといって、
改まって何かを始めるわけではない。

いつもの場所に並んで座り、
いつものようにグラスを合わせ、
逢えなかった時間の続きを話す。

それだけで、
止まっていた物語の針が、
何事もなかったように、
また動き始める。

そして、おしゃべりはどんどん弾んでいった。
気がつけば、
あなたは延長してくださった。
ありがとう。

最後まで時間を取ってくださっていたのに、
それでも私の終了時間を
気遣ってくださっていたみたい。
私が、「別に0時を回ってもいいよ」
と言うと、
「あ、そうなんだ」と笑いながら、
すぐに延長してくださった。

そして、「これでゆっくりできるね」と
言いながら、
また二人で飲み始めた。

くっついて。
笑って。
ときにはじゃれ合って。
飲んで、
つまんで、
また笑う。

ただそれだけのことが、
心から楽しかった。
あなたといると、
ふと思いついたことを、
そのまま行動に移すことが多い。

「飲みに行こうか」

そんなひと言から、
私たちはホテルを途中で飛び出して、
二人で飲みに行った。
計画なんて何もない。
ただ、そのときそうしたいと思ったから。

そして飲んでいる途中で時間が来て、
あなたはまた延長してくださった。
きっと眠たかったはず。
私も眠たかった。

それでも、
眠気よりも、楽しい。
嬉しい。
もう少し一緒にいたい。
そんな気持ちのほうが勝っていたのだと思う。

あなたとは、いろんな話ができる。
話題が尽きない。
横浜にいる二人が、こんな話する?
そんなことまで笑いながら話してしまう。

飲んでいても。
食べていても。
隣に並んで座っていても。
抱きしめ合っていても。

どの時間も、ちゃんと楽しい。

そして、
またホテルへ戻った。
また乾杯。

まるで今夜という時間を、
何度も何度も祝っているみたいだった。

そしてベッドの上で、
熱く抱きしめ合った。

心の中には、
さっき見上げた十五夜の月。

眩しくて、
美しくて、
神々しくて。

あの月の光を胸に抱いたまま、
私はあなたの腕の中にいた。

今日しかない。
今しかない。

同じ夜は、
もう二度と来ない。
だからこそ、
月の光のように輝いている
このひとときを、
思う存分楽しみたかった。

笑って。
飲んで。
抱きしめ合って。

時間を忘れるほど、
この夜に身を預けた。

楽しみすぎたのか、
気がつけば二人とも
眠ってしまっていたみたいだけれど。
それさえも、
なんだか私たちらしくて。

十五夜の月を見上げたとき、
私はその美しさに胸を高鳴らせていた。
でも今思えば、
あの月は、
これから始まる夜を先
に照らしてくれていたのかもしれない。

眩しいほどに輝いていた十五夜の月。
その月から届いたような、
思いがけない再会。
そして、
時間を忘れるほど楽しかったひととき。
ありがとう、あなた。

また逢える日を、
心から楽しみにしています。

十五夜の
光を胸に
抱きしめて
時を忘れし
君との一夜

— Morimura