もう最後のドアは開かないだろう。
そう思って、
日記も早々にまとめ、
残り30分か40分。
あまりの眠たさにアイマスクをつけて、
私はうとうとと眠りに落ちかけていた。
身体も心も、
すっかり「本日の森村、終了」
のつもりだった。
ところが――23時55分。
予約が入った。
一瞬、眠りかけた頭が追いつかない。
でも、ここは森村。
もうひと踏ん張り。
アイマスクを外して、
一度しまった心の暖簾を掛け直し、
夜の外へ出た。
これから向かうのは、
お菓子がいっぱいあるホテル。
こんな時間に食べたら、
明日の朝、胃が重たいかもしれない。
……でも、ちょっと小腹も空いている。
そんな小さな楽しみまで連れて、
あなたの待つ部屋へ向かった。
そして、本当に最後のドアが開きました。
そこにいたのは、
かわいらしい笑顔がとても素敵なあなた。
年下のあなたは、
思っていた以上に優しく、
さりげなく気遣ってくれて、
一緒にいるうちに、
眠たかったことさえ忘れていった。
年齢を聞いて、思わず私は笑う。
「私、だいぶ上だけど大丈夫なの?」
するとあなたは、
年上が好きだと言わんばかりの、
なんとも愛らしい顔をした。
おまけに、
「スタイルいいね」
「かわいいね」なんて言われるものだから、
森村、ちょっといい気分。
そう。
私、「かわいい」って言われるの、
結構好きなの。
しかも、
ずいぶん年下のあなたから言われると、
その一言がいつもより少しくすぐったくて、
やっぱり嬉しい。
ならば――ここはお姉さんに任せなさい。
そんな気分にもなってくる。
思いもしなかった、
今夜最後のドア。
その向こうに待っていたのは、
かわいい年下のあなたとの、
思いがけず心地よいランデブーだった。
部屋を出て、
夜道を帰る。本当なら、
もう眠たくて仕方がないはずなのに。
身体にはまだ、
あなたと過ごした時間の
ぬくもりが残っていて、
ほんのり熱を帯びている。
「風さん、終わったわ」
秋の風に、そっと声をかける。
「もうドアは開かないと思ってたから、
びっくりした。でも素敵な時間だった」
すると風さんが、
笑ったような気がした。
「よかったじゃない」
「うん。よかった」
そういえば、
モリリンとヒカリンは?
二人とも、
とっくに暖簾を片付けて、
安心して眠っているころだろう。
まさか、
そのあと森村が
もう一度出勤していたなんて、
きっと知らない。
それでいい。
明日の朝、
びっくりさせればいいから。
「じゃあ風さん、おやすみなさい。また明日ね」
夜の横浜を、
秋風がすっと通り抜けていく。
思いがけず開いた最後のドアは、
一日の終わりに、
小さなときめきをひとつ置いて、
静かに閉じた。
— Morimura
余話|しまった暖簾の、そのあとに✨
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