長い一日が終わろうとしている。

今日を振り返ってみると、
不思議なくらい、
一日の輪郭をつくっているのは
出来事そのものではなく、
心と身体の温度差だったように思う。

少し前まで、
横になれば
そのまま眠りの底へ
落ちてしまいそうなくらい、
眠くて、眠くて仕方がなかった。

身体はもう、
「今日はここまででいいでしょう」と
何度も私に囁いていたのかもしれない。

けれど、
ひとたびドアの向こうへ足を運べば、
そこには心を目覚めさせる時間が待っていた。

人というものは面白い。
あれほど重たかった瞼も、
心がときめいた瞬間には、
眠気の居場所など
最初からなかったように軽くなる。

笑顔に触れ、
言葉を交わし、
ぬくもりの中にいるあいだ、
身体の疲れよりも先に、
心のほうが歩き出していた。

だからきっと、
今日の私は、
眠くなかったのではなく、
眠気を忘れるほど
心が動いていたのだろう。

そして、
その時間が終わって待機所へ戻った途端。
張っていた糸が
ふっとほどけた。

コテン。

もう抵抗する間もなく、
眠りの中へ。
1時間半ほどだっただろうか。
長いようで短く、
短いようでいて、
身体には充分な休息だったらしい。

目が覚めてみると、
さっきまで頭の中を覆っていた
薄い靄が消えていた。
すっきりしている。
身体は正直だ。

心が動いているときは、
ちゃんとそこまで連れていってくれる。
そして役目を終えれば、
今度は何も言わず、
必要な眠りを取り戻してくれる。

そう思うと、
今日の私は、
無理をして一日を走りきったというより、
眠り、
目覚め、
心を動かし、
また眠り、
そのたびに自分の中の呼吸を
整え直していたのかもしれない。

今、一日の終わりに残っているのは、
疲れよりも静けさ。
そしてもうひとつ。
明日の朝も、
早く目が覚めたなら、
海へ行こう。

まだ街が眠っているうちに外へ出て、
風の中を歩き、
水面を魅つめたい。

夜の中で受け取ったぬくもりを、
朝の海へそっと預けに行くように。

今日という日は、
眠りに始まり、
心に灯りがつき、
また眠りに戻り、
そして最後には、
明日の海へと続いていく。
一日は閉じる。

けれど、
心の中にはもう、
次の朝の水平線が
うっすらと浮かび始めている。

長歌

眠たさに
身をあずければ
たちまちに
夢の底へと
沈みゆく身も
ひとたびに
心ときめく
扉越え
人のぬくもり
受けしときには
重き瞼も
どこへやら
笑みと言の葉
胸に満ち
時の流れを
忘れたり
されど戻れば
張りし糸
ほどけるように
また眠り
短き宵を
深く寝て
目覚めし頭
澄みわたり
明くる朝には
海へ行かむと
まだ見ぬ波を
胸に描きて
今日の一日
静かに閉じる

反歌

眠りより
目覚めし胸に
海ひとつ
明日の風まで
もう聞こえくる

— Morimura