勝烈庵をあとにして、森村さんは吉田橋へ。

「ヒカリン、やっと帰るね」
「うん。でも森村さん、まだ何か拾いそう」

ふふ。

吉田橋を渡る。

関外で明治の風を感じ、
戦後の横浜を歩き、
二十歳の記憶まで巡ってきた朝。

ずいぶん遠くまで旅した気がするけれど、
ようやくいつもの町へ戻ってきた。

そして伊勢佐木モールへ。

「あ、このお店。昨日寄ったところだ」
レトルトの焼売を買ったついでに、
肉まんも。
さらに気になったのが、
トマトチーズまん。

「食べてみたんだよね」
「うん。ちょっと変わった味だけど、
森村さん好きだったみたい」
「袋のままチンできるのも高得点」
「非常食候補だね」

少し進むと、今度はPRONTO。
「あ、森村さん止まった」
「朝ごパン見てる」
ベーコンに目玉焼き。
いかにも好きそう。
「でもまだ開いてない」
「9時からだもんね」
残念。

その先には家系ラーメン。
「森村さん、
一回食べてみたいって言ってたよね」
「言ってた。
でも入口のギラギラにちょっと負けてる」
「後ずさりしてるもん」

ふふ。
ラーメン。
焼き鳥。
お好み焼き。
中華。

朝の伊勢佐木モールはまだ静かだけれど、
よく見ると、いろんな店が眠っている。

「ヒカリン、こうやって歩くと面白いね」
「うん。森村さんの後ろにいると、
何でも探検になる」
そして、森村さんが空を見上げた。
真っ白。

「あ」
「森村さんの心と一緒だ」

朝のはじめには群青だった空。
その群青は粒になり、
昨日から拾ってきた風景や記憶を抱えたまま、
もう心の奥へ還っていった。

そして今、空には白い余白が広がっている。

でもその白には、
すでにほんの少し空色が滲み始めていた。

「ねえヒカリン。
森村さん、空色の手帳思い出してない?」
「絶対そう」
今日の予定。
出勤までにやること。
手帳に書かなければいけないこと。

「あ、顔つき変わった」
「仕事モード入ったね」

さっきまで明治を歩いていた人とは
思えないくらい、
もう今日一日の森村さんになっている。

「部屋に戻ったら、
すぐパソコン開くんじゃない?」
「きっとね」
また忙しい一日が始まる。

でもその前に――

「ゴール!」
モリリンとヒカリンが声をそろえた。
森村さん、無事到着。
これにて本日の
森村探検隊・朝の実況中継、終了!

そしてここからは、
真っ白になった今日の余白に、
新しい色をひとつずつ置いていく時間です。

— Morimura