やがて海へ着いた。

汽笛が響き、
遠くから若い声が聞こえ、
人々はそれぞれの朝へと走り出していた。

けれど私の昨日は、
まだ眠っていなかった。

空には、
ピンクゴールド。
静かに燃える薄紅。
グレー。
群青。
白。
そして銀。

まるで昨日一日の心模様が、
空の舞台へ総出演しているようだった。

群青は夜の余韻を抱き、
グレーは朝の余白をまとっていた。
そのふたつが青灰色のあわいで重なり、
昨日と今日の境目を曖昧にしていた。

海はそんな空を映しながら、
風に揺れている。
ポコン、ポコン。
ふふん、ふふん。

なんだか海まで、
私の心を知って微笑んでいるようだった。

強い風が吹く。
帽子を押さえながら向かい風を受けると、
眠らずに歩いてきた重たい頭が、
少しずつ軽くなっていった。
やっぱり来てよかった。

空を魅たかった。
海を魅たかった。
風を感じたかった。
光に逢いたかった。
だから私は、ここまで来た。

今回の横浜で迎える最後の朝。
以前なら、
もっと魅ておこう、
もっと感じておこうと、
景色をひとつ残らず
心へ持ち帰ろうとしただろう。

でも、もうそんなふうには思わない。
また帰ってくるのだから。

変わっていくのは、
空模様、水模様、光模様、そして心模様。

けれど、
その中にも変わらないものがある。

今も前を向いて歩いている私。
風にしなることはあっても、
簡単には折れない一本の芯。
それはきっと、
これまで生きてきた時間が何層にも重なった、
木の年輪のようなものなのだと思う。

大さん橋を出る。
足元のブルーのラインを越えた瞬間、
ひとつの国境を越えたような気がした。

国と国ではない。
心の世界と、現実の世界との境界線。
私はその線を越えて、
また今日という時間へ戻っていく。

けれど、置いていくものは何もない。
昨日の余韻も、
静かに燃えた恋の炎も、
風さんも、
クスノキの女神も、
群青も、
銀の光も。
みんな胸の中にいる。

次にここへ戻ってくるとき、
空も海も風も、
きっと違う顔をしているだろう。

私の心だって、
少し変わっているかもしれない。
それでも私は、またここへ来る。

何かを拾うためではなく、
ただ自然体の私で、
風の向くまま。
木の揺れるまま。
水の流れるまま。
ゆらゆらと歩きながら。
昨日を抱いたまま、
新しい朝へ。

それもまた、
私の朝なのだと思う。

余韻抱き
群青と灰の
あわい越え
風に身ゆだね
今日へ歩みぬ

— Morimura