群青の世界を歩いていた。
先ほどまで、
二つの星のランデブーに心を奪われていた私。
その美しい余韻を胸に、
夜明け前の静けさの中を歩いていると、
ふと、懐かしい記憶がよみがえってきた。
気がつけば、
私は遠い日の思い出が眠る場所に、
そっと心を寄せていた。
もう、ひとつの場所ではない。
喜びも悲しみも、
笑顔も涙も、
すべてをしまい込んだ、
私だけの小さな宝箱。
私は静かに目を閉じた。
夜明け前の空気の中に、
虫の音が響いている。
ふたりで大喜びした日。
何でもないことで笑い合った日。
喧嘩をした日。
悲しみに暮れた日。
いくつもの記憶が、
古い映画の一場面のように、
ゆっくりと胸の中を流れていった。
ねえ、あなた。
私、あの頃より大人になったよ。
あの頃の私は、
まだ若かった。
自分のことで精いっぱいで、
あなたの心の奥にあった苦しみを、
どこまで理解できていたのだろう。
今なら、
もう少しあなたの話を聞けたかもしれない。
今なら、
あなたのつらさを、
もっと深く受け止められたかもしれない。
あなたの心を、
ほんの少しでも癒してあげられたかもしれない。そんな思いが、
今もときどき胸をよぎる。
けれど、
過ぎ去った時間は戻らない。
あの頃の私には、
あの頃の私にしか
生きられなかった時間がある。
そして、
あなたにもまた、
私には知り尽くせない心
の世界があったのだろう。
だからこそ、
あなたと過ごした日々を、
これからも大切に抱いていきたい。
忘れるのではなく、
胸の奥で静かに温めながら。
ねえ、あなた。
私、元気にやってるよ。
今はね、
毎日がとても楽しいの。
美しい空に出逢えば、
胸がいっぱいになる。
風に吹かれれば、
思わず話しかけたくなる。
花が咲けば、
その色に自分の心を重ねてしまう。
そして、
誰かとの出逢いに胸をときめかせ、
少女のように笑い、
甘えたくなることもある。
あの頃の私が、
こんなふうに
自分の人生を楽しむ女性になるなんて、
想像できたかしら。
でもね。
楽しいことばかりではないよ。
つらい日もある。
悲しい日もある。
誰かに甘えて、
優しく包んでもらいたい日だってある。
それでも私は、
できるだけ凛として、
前を向いて歩いていきたい。
あなたと過ごした時間も、
あなたが抱えていた苦しみも、
私の人生から消えることはない。
だから、
あなたの分まで。
そして、
私自身の人生のためにも。
これからも、
自分の足で歩き続けたいと思っている。
ねえ、あなた。
今の私を見たら、
何と言うかしら。
少しは大人になったね、と
笑ってくれるかしら。
それとも、
相変わらず自由気ままだね、と
呆れてしまうかしら。
そう思うと、
思わず小さく微笑んでしまった。
私は静かに手を合わせ、
思い出の宝箱にそっと別れを告げた。
再び歩き始め、
空を見上げた。
先ほどまで、
恋する二つの星に重ねていた心模様。
その白い光の向こうに、
今度は遠い日のあなたの面影が浮かんできた。
同じ星なのに、
こんなにも違う想いを映し出す。
不思議ね。
けれど、
私の心の奥には、
どんなときも変わらない、
小さな光がある。
悲しい日も、
嬉しい日も、
誰かに恋するような気持ちになった日も。
その光だけは、
静かに灯り続けている。
そして、
夜明けの空には、
細く美しい有明の月。
まるで、
星に託したいくつもの願いを、
そっと見守ってくれているようだった。
私は、もう一度空を見上げた。
ねえ、あなた。
私ね、
これからもたくさん笑って、
たくさん感動して、
自分の人生を思いきり楽しむつもりよ。
だから、
どうか安心していてね。
星に願いを。
月に祈りを。
遠い日のあなたへの想いを、
そっと胸にしまい、
私は再び歩き出した。
群青の向こうには、
新しい朝が待っている。
そして、
その朝へ向かう私の心には、
今日も静かな桃色の灯がともっていた。
遠き日の
君の面影
星に宿し
月に祈りて
明日へと歩む
— Morimura
第一幕|星に願いを、月に祈りを――記憶の宝箱、遠き日のあなた✨
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