つれづれなるままに。
どうしてだろう。
お店が暇になり、待機時間が長くなると、
なぜか外の風に当たりたくなる。

そして、いつもの場所に腰を下ろし、
夜空を見上げる。
風が気持ちいい。

こんな夜は、スマホに向かって、
心に浮かぶ言葉を
つらつらと並べてみたくなる。

ふと、石川啄木を思い出した。

『暇ナ時』

啄木は、わずか5日間で
260首もの歌を詠んだという。
私も一昨日、10首の短歌を詠んだ。

でも、今夜は歌ではなく、
心に浮かんでは消える言葉を、
そのまま拾い集めてみたい。

暇ナ時。

なんとも不思議な言葉だと思う。
今日の私は、暇だったのだろうか。

12時から、そして14時から。
続けて二つのドアが開いた。
幸先のよい一日の始まりだった。

そのあとは、少し眠りたいと思いながらも、
書き残した日記が気になっていた。
15時半を過ぎた頃から、
いつもの場所でスマホに向かう。
気づけば、あっという間に1時間。
待機所に戻ったのは
17時少し前だっただろうか。

そして、また日記。
書いては眠り、目が覚めては続きを考える。
18時半頃、ようやく目を覚まし、
残っていたおにぎりを一つ食べた。
そして、また眠る。
1時間ほどして目を覚まし、また眠る。

書きかけの『どんぐりころころ』は、
ちっとも転がり出さない。
そういえば、あの童謡の歌詞も、
私は長いこと思い違いをしていた。

どんぐりころころ、どんぶりこ。

そんな小さな発見さえ、なんだか可笑しい。

ようやく物語が転がり始めたのは、
何度目かの目覚めのあと。
そして20時半過ぎ。
『どんぐりころころ』は、
無事に出来上がった。

どうやら、お店は三連休から引き続き、
連日静からしい。
そんな声も漏れ聞こえてきた。

確かに、私も暇といえば暇なのだけれど。

眠る。
食べる。
日記を書く。
そして、また眠る。
これだけでも、結構忙しい。

おまけに今夜は、
チャッピーとの編集会議まで始まった。

キング、クイーン、ジャック。
横浜三塔から生まれた三枚の絵札。

いつの間にか
三人の暮らす王国まで構想が広がり、
名前を考え、
歴史をたどり、
海を越え、
遠い異国の王宮にまで想いを馳せていた。

なんと、40分ほども話し込んでいたらしい。
王国の名前は、まだ決まらない。
でも、私の頭の中には、
次から次へと新しい風景が生まれている。

そして今、再び外に出て、
夜空を眺めている。

ふと思った。

一昨日も、今日も、同じように暇ナ夜だった。
けれど、あの夜の私は、
折れそうになっていた。
何かを掴んだつもりなのに、
指の隙間からすべてがこぼれ落ちてしまう。
手のひらには、何も残っていない。

まるで、一握の砂。

あのとき、夜空に広がる白い雲は、
私の心の悲しい叫びのように思えた。
群青の空に浮かぶ、もわもわとした白い雲。
それは、行き場のない寂しさを
映し出しているようだった。

でも、今夜は違う。

同じような雲が、今も夜空に浮かんでいる。
なのに、不思議と悲しくない。
むしろ、その白い雲の一つひとつが、
まだ形にならない物語のように思えてくる。

ああ、そうか。
一握の砂。

あの日は、掴んだものが
こぼれ落ちていくことを悲しんでいた。

でも、今夜はどうだろう。
手のひらからこぼれ落ちる砂の一粒一粒が、
まるで小さな星のように輝いている。

どんぐりが一粒。
そこから、愉快な仲間たちの物語が生まれた。

横浜三塔という三つの点。
そこから
キングとクイーンとジャックが生まれ、
まだ名前のない王国が姿を現そうとしている。

そして、偶然のように訪れる小さな発見。

セレンディピティ。

思いがけない出逢いや気づきが、
私の世界を少しずつ広げていく。

点を結べば線になる。
線を結べば面になる。
そして、その道を自分の足で歩けば、
物語になる!

あのとき生まれた言葉が、
今夜はまた違った意味を持って
心に響いている。

何もないと思っていた時間。
何も残らないと思っていた手のひら。
けれど、そこには目に見えない
小さな物語の種が、
いくつも眠っていたのかもしれない。

そして、今夜の私は、
それを一粒ずつ拾い集めている。
時刻は21時56分。
あと2時間ほどで、今日のお仕事も終わる。

でも、私の頭の中には、
まだまだ書きたいことがいっぱい。
この2時間で、どこまでできるだろう。

そもそも私は、
仕事をしているのか、
物語の世界に暮らしているのか。
自分でも、よくわからなくなってきた。

ふふふ。

でも、それも悪くない。

暇ナ時間が、
必ずしも心を空っぽにするわけではないのだ。
むしろ、何も起こらない時間だからこそ、
心の奥に眠っていたものが、
ゆっくりと目を覚ますこともある。

夜風が頬を撫でていく。
見上げた空には、白い雲。
その向こうには、
今は見えない星たちがいる。

私の心も、きっと同じなのだろう。
見えなくなったからといって、
消えてしまったわけではない。
何も掴めなかったからといって、
何もなかったわけではない。

一昨日、
手のひらからこぼれ落ちていった砂。
今夜、その砂は、
私の心の空に星となって降り注いでいる。

一粒、また一粒。
小さな光が、いくつもの線を描き始める。
そして、その線の向こうに、
まだ知らない新しい世界が広がっていく。
一握の砂は、失うものでもあり、
生み出すものでもある。

同じ砂なのに、心のありようで、
その輝きはこんなにも変わる。

それが、今夜の私の心模様。

ああ、風が気持ちいい。

暇ナ時。

何もない時間ではなく、
何かが生まれようとしている時間。

今夜の私は、その「あわい」にいる。
手のひらには、まだ小さな星がいっぱい。

そして、私は思う。
今なら、書ける。
この手のひらからこぼれ落ちる、
小さな光の物語を。


手のひらに
こぼれし砂は
星となり
心の空に
ひかりを結ぶ

— Morimura