一筆入魂|「灯」〜心の奥にともる、消えない温もり〜
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灯。
なんと小さく、
なんと温かな一文字なのだろう。
炎という文字には、燃え上がる力強さがある。
光という文字には、
あたりを照らし出す輝きがある。
けれど、灯という文字には、
どこか人の心に寄り添う優しさがある。
それは、
暗闇を一瞬にして昼へと変えるような、
眩しい光ではない。
むしろ、深い夜の中に、
ぽつんとともる小さな明かり。
その明かりを見つけたとき、
思わずほっと息をついてしまうような、
そんな温もりなのだと思う。
今朝、
私は夜明け前の群青の空を見上げながら、
ひとつの言葉に出逢った。
恋灯り。
群青がゆっくりと白に還り、
その白の奥に、ほのかな薄紅が差していく。
燃え盛る炎ではなく、
消えかけた残り火でもない。
心の奥にそっとともり、
静かに温もりを育んでいく小さな光。
それが、恋灯り。
そして、その光を魅つめながら、
もうひとつの言葉が生まれた。
澄み重なる。
喜びも、ときめきも、
誰かからいただいた優しさも。
過ぎ去った時間の底に沈んでいくのではなく、
澄んだまま、心の奥へと静かに重なっていく。
幾重にも重なりながら、
決して濁ることのない透明な想い。
そこには、重さよりも深さがある。
激しさよりも、静かな確かさがある。
不思議なものだ。
人は誰かから温かな言葉をいただくと、
その言葉を胸の奥にしまっておこうとする。
けれど、しまっておいたはずの言葉が、
ある朝、思いがけず
新しい光を放つことがある。
忘れていたわけではない。
消えてしまったわけでもない。
ただ、心の中で静かに息づいていたのだろう。
そう考えると、人の心とは、
小さな灯を幾つも宿した、
美しい燭台のようなものなのかもしれない。
そして今朝。
天空に輝くシリウスを魅つめながら、
私は地上に生きる人々の姿を思った。
誰にも知られず、誰にも褒められず、
それでも懸命に歩み続ける人。
その人の胸にも、
きっと小さな灯がともっている。
夢という灯。
希望という灯。
誰かを想う優しさという灯。
それぞれに色も明るさも違うけれど、
どの灯にも、その人だけの物語がある。
そして私は思う。
灯は、分け与えても減ることがない。
一本の蝋燭から、もう一本の蝋燭へ。
小さな炎を分けても、
最初の蝋燭の明かりが失われるわけではない。
むしろ、ふたつの灯が生まれることで、
あたりは少し明るくなる。
人の優しさも、きっと同じなのだろう。
誰かからいただいた温もりが、
自分の心に灯をともす。
そして、その温もりを別の誰かに届けたとき、
また新しい灯が生まれる。
そうして、人と人との間を、
目には見えない光が静かに渡っていく。
それは、何か大きなことを
成し遂げることではない。
ほんのひと言。
さりげない微笑み。
誰かの話に耳を傾ける、短い時間。
そんな何気ない日々の中にも、
灯は生まれている。
今朝、朝焼けの空には、
梵字にも似た小さな雲文字が浮かんでいた。
その文字たちは、まるで天空から地上へ、
小さな祈りを届けているようだった。
あなたの今日が、
誰かの心を照らす光になりますように。
その言葉を、私は心の中でそっと繰り返した。
誰かに照らしていただくばかりではなく、
自分もまた、
誰かの心に小さな灯をともせる人でありたい。
眩しい光でなくてもいい。
大きな炎でなくてもいい。
ただ、静かに、温かく。
心の奥に澄み重なっていく優しさを、
今日という一日の中で、
少しずつ分け合っていけたなら。
それだけで、私の歩く道も、
きっと美しい光に包まれることでしょう。
灯。
それは、闇を消すためだけのものではない。
闇の中にも、
温もりがあることを教えてくれるもの。
そして、明るい朝を迎えても、
なお心の奥でともり続けるもの。
今日もまた、私の胸には小さな恋灯りがある。
その光を大切に抱きながら、
私は新しい一日へと歩き出す。
心に澄み重なる温もりを、
いつか誰かの灯りに変えて。
— Morimura