昨夜、午後10時前。
高市首相がSNSで
緊急のメッセージを発信した。

「大至急のお願い」何事かと思えば、
プログラミング言語PHPに
重大な脆弱性が見つかったという。

PHP。
ピー・エイチ・ピー。

なんとも軽快な響きだけれど、
事態はちっとも軽快ではない。

修正プログラムへの速やかな対応。
場合によっては
ウェブサイトの一時停止も検討するという。

昨夜のうちに、
翌朝が慌ただしくなることは予想していた。
そして迎えた今朝。

やっぱり!

PHPを使用しているウェブサイトは、
まず安全を優先してメンテナンス中に。

それぞれのお客様への状況説明。
PHPのバージョンアップに向けた手配。
作業スケジュールの調整。
再公開の見通し。
そして、お見積もり。

あちらへ連絡、こちらへ確認。
ひとつ電話を切れば、また次の電話。
私の頭の中では、
PHPが右へ左へと飛び回っている。

まさに、踊るPHP問題!
ふと、あのドラマを思い出した。
『踊る大捜査線』

事件は会議室で起きているんじゃない!
そうなのだ。
事件はネットの向こうで起きている!

そして、その対応に追われる私たちも、
朝から大忙しなのである。

それにしても、「脆弱性」
この漢字三文字には、いつも悩まされる。
そもそも、この名前が気に入らない。
「脆い」に「弱い」と書く。
なんだか、いかにも頼りなさそうではないか。

ところが、どっこい!
この三文字、ちっとも弱くない。
ひとたび現れると、こちらは右往左往。
電話は鳴るわ、
確認事項は増えるわ、
スケジュールは組み直しになるわ。
挙げ句の果てには、首相まで登場する始末!

ちょっと、あなた!
脆くて弱いのは、あなたの方でしょう?
どうして私たちが、
こんなに振り回されなければならないのよ!
しかも、この三文字。
遠慮というものを知らない。

ある日突然、堂々とやって来て、
「はい! 緊急対応、よろしく!」
とでも言わんばかり。
なんという図々しさ!
こちらは頼んでもいないのに、
仕事を山ほど置いていく。

しかも、お帰りいただくには、
調査、修正、検証、確認と、
こちらがせっせと働かなければならない。
弱いくせに、態度は大物。
まったく、困ったお客様である。

できることなら、丁重に申し上げたい。
「脆弱性様、本日は満室でございます。
どうぞ、お引き取りくださいませ」
けれど、そう簡単にはお帰りいただけない。
ああ、恐るべし、脆弱性!

たった三文字で、
これほど人を踊らせるとは!
まさに、踊るPHP問題なのである。

思えば、
サーバー環境のバージョンアップに合わせたPHPへの対応は、
これまでも幾度となく経験してきた。
その都度、動作を確認し、
必要な修正や調整を重ねてきた。
いわば、日常的なシステム管理の
一環でもあった。

けれど、今回は事情が違う。
首相自らが緊急の注意喚起を行い、
これほど大々的に対応を呼びかける事態は、
私の記憶では初めてではないだろうか。
それだけに、緊迫感がまるで違う。

そんな対応に追われながら、ふと思った。
これって、災害が発生したときの復旧対応と、
どこか似ているのではないだろうか。
もちろん、実際の災害とは
被害の性質も規模も異なる。

けれど、まず危険の拡大を防ぐこと。
現状を把握し、関係者に情報を伝えること。
復旧に向けた手順を考え、
優先順位を決め、作業を進めること。
そして、安全を確認してから
日常を取り戻すこと。

その一連の流れには、
確かに共通するものがある。
目に見えないプログラムの向こうにも、
お客様の仕事があり、日常がある。
だからこそ、慎重に、
そして迅速に対応しなければならない。

いつもの朝なら、
空を見上げ、海を眺め、
朝陽の輝きに心を遊ばせているところ。
ところが今朝は、
そんな心の旅を楽しんでいる場合ではなかった。空を見上げても、PHP。
海を眺めても、PHP。
太陽の光の中にも、PHP!

ああ、もう!私の頭の中で、
いったい何人のPHPが踊っているのだろう。

今朝、空に見つけた、
あの梵字のような不思議な形。
あれは、いったい何だったのだろう。
もしかしたら、
PHPのプログラム言語が
天空に舞い上がっていたのかもしれない。

梵字なのか、PHPなのか。
とうとう空に浮かぶ雲まで、
プログラムに魅えてくるなんて!

私の頭の中まで、
バージョンアップが必要なのかしら。
いやいや、
その前にメンテナンスが必要かもしれない。
さて、今日の私。実は昨夜から、
こうなることをある程度予想していた。
だから、
出勤時間を午後に遅らせていたのである。
そして、こう言ってよいものか
少々迷うのだけれど……。

夕方にいただいていたご予約まで、
思いがけず時間が空いていた。
その間、
いったい何本の電話が
かかってきたことだろう。

あちらから状況確認。
こちらから作業の依頼。
スケジュールを確認して、
お客様にご説明。

再公開に向けた段取りを整え、
お見積もりの手配も進める。
電話を置いたと思えば、
また電話。

PHP、PHP、またPHP!
けれど、不思議なことに、
今日は落ち着いて対応することができた。
もしも次々にご予約が入っていたら、
こんなふうにはいかなかっただろう。

ところが今日は、たっぷり時間がある。
ひとつずつ確認し、
ひとつずつ判断して、
必要な手配を進めることができた。

あら。

そう考えると……。
今日は暇で、運が良かったのかもしれない。

いつもなら、
時間が空くと
少しばかり寂しく感じることもある。
けれど、今日ばかりは違った。
何も予定が入っていない時間が、
こんなにもありがたいものになるなんて。

世の中、何が幸いするかわからない。
もちろん、問題が解決したわけではない。
これからバージョンアップを進め、
安全を確認し、
再びウェブサイトを公開するまで、
まだ仕事は続いていく。

けれど、ひとまず今日できる手配は整えた。
さて、脆弱性様。
そろそろ私の頭の中からも、
ご退場いただけませんでしょうか。
本日のご滞在は、これにて終了!
延長はお断り申し上げます。

どうせ踊るなら、
もっと楽しい音楽に合わせて踊りたいものだ。
朝はPHPに踊らされ、
夜は心を躍らせる。
なんとも忙しい一日である。

さあ、今度こそ私の好きなリズムで!

ーMorimura