和歌山から帰ってきたその足で、
私はもう一度、夜の予定へと向かう。

本当なら、服を脱いでソファに沈み込み、
そのまま何もせずに過ごしたい。
けれど、夕方からの予定は、
どうしても今日しか時間が取れなかった。
かなりハード。
でも、行かねばなるまい。
だって、仕事だから。

急いで着替え、気持ちも夜仕様に整えて、
向うのは和食のお店。
今夜の主役は、
「金目鯛、太刀魚、鱧」
三人がそれぞれ、
食べたい魚をひとつずつ選んで、
予約時に伝えた。

私が選んだのは、金目鯛。
魚だけを指定して、
どのように調理するかは、
お店の方にすべておまかせ。
これも、予約時に伝えた。
わがままなようで、わがままではない。
でも、よく考えてみれば、
やっぱり少しわがままなメニュー。

私は魚が好きだから、
金目鯛だけでなく、太刀魚も鱧も食べたい。
つまりこれは、三人で旬を分け合う、
よくばりな献立でもある。

ご一緒するのは、
長〜いお付き合いのお二人と私の三人。
お二人とも年配だからと油断していると、
私が密かに狙っていたものが、
いつの間にかきれいに
なくなっていることがある。
お料理の技が素晴らしいせいなのか、
それとも、おじさま二人も
旬の味には抜け目がないのか。

今夜は、のんびり構えてはいられない。
金目鯛も、太刀魚も、鱧も。
お喋りに夢中になっているうちに
逃してしまわぬよう、
箸先だけは抜かりなく。
旬の味わいも、
大人の駆け引きも、
先に手を伸ばした者の勝ちなのかもしれない。