3日ぶりに大通り公園を歩き、
あなたの待つお部屋へと向かった。

見慣れた道のはずなのに、
これからあなたに逢えると思うだけで、
街の景色まで少し違って見える。
胸の奥に小さなときめきを抱きながら、
一歩ずつ足を進めた。

そして、最初のドアが開きました。
お部屋のインターホンを鳴らすと、
ドアの向こうには、
いつものように目を細め、
温かなまなざしで
私を迎えてくださるあなたがいた。

「嬉しいわ。
今日もまた逢いに来てくださったのね」
「逢いたかったからね」
そんな言葉を交わしながら、
あなたは私をそっと抱きしめてくださった。

あなたの腕の中へ身を預けた瞬間、
逢えなかった9日間が、
静かにほどけていくようだった。
懐かしいぬくもりに包まれ、
ようやく戻ってこられたような、
不思議な安らぎを感じていた。

ソファに横並びに腰掛けると、
逢えなかった間の出来事を、
あれこれ楽しく語り合った。
あなたは本当にお話が上手。
何気ない問いかけから、
私の中に眠っていた言葉や気持ちを、
自然に引き出してくださる。
私もおしゃべりな方だと思っているけれど、
気づけばいつも、
あなたの心地よい話の流れに
引き込まれてしまう。

9日ぶりに逢えたというのに、
もっと長い間、離れていたような気がした。
それだけ、いつも心のどこかで、
あなたに逢いたいと
思っていたからなのかもしれない。
積もる話は尽きることなく、
笑ったり、驚いたり、
ときには顔を見合わせたりしているうちに、
時間は驚くほど早く流れていった。

やがて、あなたが、
「また夜の街を、ぶらぶら歩こうか」と
おっしゃった。
その言葉が嬉しくて、
私はすぐに「行きたい」と答えた。

二人でお部屋を出て、
夜の馬車道へと繰り出す。
あなたと腕を組んで歩いていると、
ほんの少し恋人同士になったような気がして、
心が弾んだ。
いつも朝のウォーキングで通っている道。
けれど、夜の馬車道は、
朝とはまるで違う表情を見せていた。

街灯のやわらかな光が石畳を照らし、
街の明かりが路面に淡く映り込んでいる。
夜風が髪とワンピースの裾をそっと揺らし、
腕を組んだあなたのぬくもりが、
すぐ隣から伝わってきた。
同じ道なのに、あなたと歩くだけで、
こんなにもロマンティックな
風景になるなんて。
見慣れた街が、
まるで映画のワンシーンのように
輝いて見えた。

歩いている途中、今日もまた、
雰囲気のよいおばんざいのお店を見つけた。
私はおばんざいが大好きだから、
店先に並んだ大鉢を魅た瞬間、
すっかり嬉しくなってしまった。
「これと、これ。
それから、あれもいただきたいわ」
大鉢を指さしながら、
気づけば、
あれもこれもとたくさん頼んでいた。

カウンターに横並びに腰掛け、
二人でグラスを合わせる。
冷たい飲み物で喉を潤し、
おいしいおばんざいを味わいながら、
また、とりとめのない話を重ねていく。
何を話していたのか、
すべてを覚えているわけではない。
けれど、あなたの声や笑顔、
すぐ隣にいてくださる安心感は、
今も鮮やかに心に残っている。

あなたが耳元でそっとささやくたびに、
胸がドキッと高鳴った。
あなたの息が首筋をかすめる。
そのたびに、心の奥へ小さな波紋が広がり、
鼓動が少しずつ速くなっていく。

今度は私が、あなたの耳元へ顔を寄せ、
小さな声で言葉を返す。
肩が触れ、腕が触れ、
互いの体温が静かに伝わってくる。
あなたはいつも、さりげなく、
そして優しく私を包んでくださる。

落ち着いた店内の明かり。
穏やかに響く、大人たちの声。
寄り添う私たちの間に流れる、
つややかで心地よい空気。
そんな夜に、
これほどよく似合うお店はないように思えた。

お店を後にして、再びあなたと腕を組み、
夜の街を歩きながらお部屋へと戻った。
そして、また抱きしめ合い、
言葉を交わし、ささやき合う。

あなたに触れられるたびに心はときめき、
身体の奥まで鼓動が響いていくようだった。
私もそっとあなたに触れ、
そのぬくもりと確かな鼓動を感じる。
すぐそばに、あなたがいる。
そのことが、ただ嬉しかった。

暑い、暑い夏の夜。
けれど、私たちの間に流れていた熱は、
真夏の暑さだけではなかったのかもしれない。
心まで満たされていくような、
きらめきに包まれた時間。
まるで真夏の夜に見た、
甘くつややかな夢のようだった。

やがて、お別れの時が訪れた。
もう少しこのままでいたいという思いを
心の奥へそっとしまい、
最後にもう一度、
あなたのぬくもりを確かめるように
抱きしめ合った。
素敵なひとときを。
きらめく時間を。
そして、心まで満たされるような、
大人のつややかな夜を、
本当にありがとうございました。
また、お待ちしていますね。

そして、最後のドアが閉まりました。
けれど、その向こうに
あなたの姿が見えなくなっても、
ぬくもりと余韻は、
まだ私の中に残り続けていた。