あなたとの待ち合わせ場所へ向かった。

11時半すぎにお店へ着いて、
今日の居場所を確保して、
いつもの段取りを済ませていたら、
少し出るのが遅くなってしまった。
間に合うかな。

そんなことを思いながら足早に歩いていると、
もうすぐ待ち合わせ場所というところで、
あなたの姿が見えた。
嬉しくなって、
大きな声で名前を呼び、
そのまま駆け寄ろうとした私。

ところが、あなたの顔ばかり
魅ていたものだから、
うっかり赤信号を渡ってしまった。
「おいおい、信号無視だぞ」
逢って早々、あなたに叱られてしまった。

それでも、その次には久しぶりのハグ。
「嬉しいわ。
まさか今日、来てくれるとは思わなかった」
「元気だった?」
「元気だったよ」
そんな何気ない言葉さえ、
今日はなんだか嬉しかった。

そして、いつものコンビニへ。
あなたはハイボール。
私はビール。
何にしようかな、と迷っている私に、
あなたが下の陳列棚を指さした。
「おい、赤星あるぞ」
「ほんと?」
缶が水色だったから
一瞬わからなかったけれど、
見つけた、赤い星。
もう迷う理由はなかった。

いつものホテルに着いたら、
最初のドアは、あなたと二人で開けた。
まずは乾杯。
久しぶりに逢えたからなのだろう。
積もっていた話が、
次から次へと溢れてくる。
話して、笑って、飲んで、また話す。
気がつけば、
それだけで二時間が過ぎようとしていた。

「もう二時間終わっちゃったわね」
そう言った私に、
「延長するよ」と、あなた。
そこからまた二時間。

それなのに、まだ話は尽きない。
お風呂に入っても話して、
ベッドへ戻っても話して。
私と逢う前から飲んでいたあなたは、
少し酔いも回っていたみたい。

そんなあなたの腕枕で、
私もすっかり力が抜けてしまった。
優しさに包まれているうちに、
ふたりしてこのまま眠ってしまいそうな、
なんとも穏やかな時間だった。

すると突然、
「ラーメン食べに行こうか」
あなたが言った。
九州ラーメン、北海道ラーメン、家系ラーメン。実は私、横浜でまだ
ラーメンを食べたことがない。

最初は北海道ラーメンもいいかな
と思ったけれど、
せっかく横浜にいるのだから――。
「やっぱり、家系ラーメンがいい」
そう決めた。

しかも、ラーメンを
ゆっくり食べられるようにと、
あなたはまた時間を延長してくださった。
きっと私が
「家系ラーメンを食べたことがない」
と言ったからなのだろう。

今日、あなたが延ばしてくださったのは、
時間だけではなかったように思う。
私ともう少し一緒にいようとしてくださる、
その気持ち。
私が楽しめるようにと考えてくださる、
その優しさ。
その一つひとつが嬉しかった。

そして、いよいよ人生初の家系ラーメン。
脂っこいと聞いていたから、
今まであまり食べてみようとは思わなかった。

ところが、ひと口。
「あら……美味しい」
もうひと口。
「なかなか美味しいじゃん」
家系初心者の私の隣で、
「これ入れてみたら」
「こっちも美味しいよ」と、
あなたが食べ方を教えてくれる。

言われるままに試しては、
「美味しい、美味しい」を繰り返す私。
とうとうお店の方にまで、
「初めて食べたけど、めっちゃ美味しいです」
と言ってしまった。
すると、お店の方まで
嬉しそうに笑ってくださった。

なんだか今日は、みんな笑っている。
久しぶりに逢って、
乾杯して、いっぱい話して、
あなたの腕枕で少し眠って、
最後には、初めての家系ラーメン。

振り返れば、
ずいぶん長い時間を一緒に過ごしていた。
でも、不思議。
長かったはずなのに、
私にはちっとも長く感じられなかった。

何度も時間を延ばしてくださったあなた。
そのたびに増えていったのは、
一緒にいられる時間だけではなく、
私の中の嬉しい思い出だったのだと思う。

「また逢おうね」そう言って、
あなたと別れた。

外へ出ると、もう夕方。
まだ空には明るさが残っていた。

そこへ、爽やかな風が吹いてきた。
いっぱいになった心と、
家系ラーメンで満タンになったお腹を、
「よかったね」と、
そっと撫でてくれているみたいだった。

ああ、私の風が帰ってきた。
髪をふわりとなびかせながら、
私の周りを楽しそうに舞っている。
今日はもう、心もお腹もいっぱい。

待機所へ戻ったら、少し睡眠貯金をしよう。
きっと、すぐに眠れる。
目を閉じたら、
あなたの腕のぬくもりと、
赤い星と、
初めての家系ラーメンと、
「また逢おうね」の声が、
今日の風に乗って、
もう一度私のところへ帰ってきそうだから。