初めての家系ラーメンに感激して、
またひとつ、横浜で知る
新しい味わいが増えたような気がした。

美味しかった。
けれど、それ以上に胸に残ったのは、
そんな美味しい時間まで私にくださった、
あなたの優しい気持ちだった。

それを思うと、
ラーメンで温まったはずの胸が、
もう一度じんわりと熱くなった。

待機所へ戻り、ゴロンと横になる。
おそらく、私
はすぐに眠ってしまったのだと思う。

――メールの着信音。
目を開けても、
頭はかなりぼんやりしていた。
しばらく天井を魅つめる。
何が起きたのか、すぐには理解できない。
やがて、眠っていた頭がゆっくり動き始めて、
ようやく「お仕事が入った」
ということを理解した。
時計を見ると、22:00を回っていた。

四時間も眠っていたのね。
ずいぶん長い睡眠貯金をしてしまった。
ご予約のコースを確認すると、180分。
「終了は2:00になるわね」
そう思った途端、
私は今日の居場所を片付け始めた。

けれど、今日の片付けは、
いつもとは少しだけ気持ちが違った。
明日から三日間、お店をお休みする。
次にここへ戻ってくるのは四日後。
そう思うと、
いつも何気なく触れているものまで
少し愛おしく感じられて、
ひとつ、またひとつと、丁寧に片付けた。

そして、ホテルへ向かった。
最後のドアが開きました。

「俺のこと覚えてる?」
かわいらしい笑顔のあなたが、
そう言って迎えてくださった。
「お久しぶりね。もちろん覚えてるわよ。
約束通り、また来てくれたのね。嬉しいわ」

言葉を交わしながら、
初めてあなたと出逢った日の記憶が、
頭の中をくるくると巡っていた。
あのときも、楽しかった。
面白かった。そして何より――
あなた、とってもかわいかったわ。

あなたはすでに少し飲んでいて、
私にもビールを勧めてくださった。
私も今日は昼から飲んでいたから、
あの四時間の睡眠貯金がなければ、
きっと、もうビールは飲めなかったと思う。

それでも今は、
不思議なくらいすっきりしていた。
再会の乾杯。
そして、ぎゅっと抱きしめ合った。

「ママ、ママ」と甘えてくるあなたを、
頭を撫で、頬に触れながら、
私はお母さんのような気持ちで
何度も抱きしめた。
「坊や、坊や」そう言うと、
あなたはますます嬉しそうに甘えてくる。
ずっとくっついたまま、
イチャイチャしながら、
時計の針だけが静かに進んでいった。

「延長していい?」
そう言ってくださったあなた。
私は3:00には起きるつもりだったから、
「1時間なら大丈夫よ」そう答えた。
あなたが、
私と一緒に過ごす時間を
大切にしてくださっている。
その気持ちが伝わってくることが、
何より嬉しかった。
幸せだった。夢を見るような、

真夏の夜。いつの間にか日付変更線を越え、
夜と呼ぶには遅すぎる時間になっていた。
それでも私たちは、
もう一度ビールを合わせた。
朝の乾杯。
「また待っています」
そうして、最後のドアが閉まりました。

ホテルを出ると、
そこにはもう、朝の気配があった。
そして――私の風が、帰ってきた。 

夕方からずっと室内にいた私のところへ、
長い夜が終わるのを待っていたかのように、
風がするりと駆け寄ってきた。

気持ちいい。
清々しい。
私は空を見上げた。
まだ夜の帳は降りたまま。

雲も見えない。
太陽も、まだ姿を見せない。
それでも、
この暗闇の向こう側で、
夜の帳が静かに幕を開ける時間を
待っていることだけはわかった。

ライトに照らされた木々は、
黒い影となって夜空に浮かび上がっていた。
その木々さえも、
「おかえり」と、
私を呼んでくれているようだった。
そして風は、「お疲れさま」と頬を撫で、
「でも、このまま眠ってはだめよ」と、
少しいたずらっぽく囁いているようだった。

長い、長い一日だった。
美味しいものを食べ、
笑い、
飲み、
眠り、
そしてまた、誰かの優しさに包まれた。

ずっと夢を見ていたような一日。
けれど今、
風が頬に触れている。
木々の影を魅つめながら、
自分の影と一緒に歩いて帰る。
一歩、一歩。
夜の終わりと、
朝の始まりの、
ほんのわずかな隙間を歩いてゆく。

気持ちがよかった。
夢から覚めてしまうのが惜しいのに、
朝の風に逢えることも、また嬉しい。
だから、もう少しだけ歩こう。
この夢の余韻を、
風にほどいてもらいながら。
そして私は、
夜の帳の向こうで待っている朝へと、
静かに歩いていった。