荷物をまとめる目処が
ある程度ついたところで、
ほっとしてしまったのだろう。
テレビを観ながら
ソファーにごろんと横になったら、
そのまま眠ってしまっていた。
どれくらい眠ったのだろう。
たぶん、1時間半くらい。
お昼ご飯を食べることさえ忘れていた。
目が覚めた瞬間は、
いつもの「ここはどこ?」状態。
ぼんやり天井を魅つめながら、
しばらく考える。
ああ、そうだ。
家のリビングだ。
ふと気づくと、
身体にはブランケットがかけられていた。
朝、ご機嫌ななめに見えていた家族が、
眠っている私にそっとかけてくれたらしい。
そのブランケットから、
じんわりと暖かな愛を感じた。
朝は、ずいぶん不機嫌そうに見えた。
その顔を見て、
私まで嫌な気分になってしまっていた。
でも、もしかしたら——。
そう見えていただけなのかもしれない。
本人は不愛想な顔をしているつもりも、
怒っているつもりもなかったのかもしれない。
「ブランケット、かけてくれたのね。
ありがとう」そう言うと、
にっこり笑って、
「すぐに寝てたみたいよ。
よっぽど眠かったのね」
朝が朝だっただけに、
その何気ない一言が嬉しかった。
人の表情なんて、
こちらの心ひとつで
違って見えることもあるのかもしれない。
まだ暑い時間だったから、
できれば外には出たくなかった。
でも、今しかない。
私の遅いお昼と、
晩御飯のおかずを買いに出かけることにした。
街へ出てみると、人の多さにびっくりした。
これもお盆休みの街の風景なのだろう。
けれど今日は、日差しが柔らかい。
そして、風がある。
街中を流れる大きな川を魅つめていると、
水面は涼しげに揺れ、
そこから大きな大きな風が、
どんどん舞い上がってくる。
今日はひらひらのスカート。
まるでマリリン・モンローみたいに、
裾がふわっと
めくれ上がってしまいそうなほどの風だった。
私についてきた風も、
川から吹き上がる風と出逢って、
一緒になって遊んでいるのかもしれない。
しばらく立ち止まって、川を魅つめていた。
そして、私の風に声をかける。
「そろそろ行くよ」
デパ地下へ入ると、
そこはさらにすごかった。
超満員。
まず、頼まれていたハンバーグを買う。
私はエビフライを
買うつもりだったのだけれど、
今朝食べた
ニシンと茄子の揚げ浸しのお店を
見つけてしまった。
今日までしか売っていないと思うと、
素通りできない。
しかも、残っていたのは二パック。
……二つとも買ってしまった。
一つは今日の遅いお昼。
もう一つは晩御飯にすればいい。
だから、エビフライはやめ。
ここまでは、まだよかった。
問題はそのあと。
三河一色産のうなぎの蒲焼きを前にしたら、
どうしても諦めきれなくなってしまった。
小さいものを一匹。
買ってしまった。
さらに、以前よく買っていた
カレイの唐揚げまで見つけてしまった。
これが美味しい。
大根おろしにポン酢を合わせて食べると、
唐揚げなのにさっぱりしていて、
丸ごと一匹でもぺろりといけてしまう。
久しぶりに出逢った嬉しさで、
家族の分と私の分まで買ってしまった。
ああ、困った。
私が自宅で食事をするのは、
今日の遅いお昼と晩御飯、明日の朝と昼。
あと四回しかない。
その四回で、ニシンと茄子の揚げ浸し二回分。
小さなうなぎの蒲焼き一匹。
そして、カレイの唐揚げ丸ごと一匹。
全部、食べなければならない。
食べられるのだろうか。
そんなことを考えながら、
欲張りで食いしん坊な自分を
ちょっぴり反省した。
でも、反省したはずなのに、
買い物はまだ終わらない。
帰りしなに和菓子売り場を通り、
福砂屋のカステラを一本。
そして虎屋では、
家族へのお土産に羊羹を買った。
ついでに、お盆のお供え物も。
お盆の間、自宅にいないのだから、
せめてもの罪滅ぼし。
ところが、お盆と帰省の時期が
重なっているせいか、
和菓子売り場は大繁盛だった。
贈答用の包装をお願いしている人も多く、
なかなか順番が進まない。
虎屋で待っているうちに、
だんだんイライラしてきた。
とうとう痺れを切らして、
「まだですか?」
少し不機嫌な声を出してしまった。
すると、さすが虎屋の店員さん。
にこやかな笑顔で、
「申し訳ございません。
もう少々お待ちください。次ですから」
その笑顔を見た途端、
ちょこっと顔を出していた私のイライラが、
すっと引っ込んだ。
ああ……。
私も、いつも笑顔でいようと
思ったばかりなのに。
まだまだ未熟者だ。
予定していたより、
ずいぶん長い買い物になってしまった。
ようやく地上へ出る。
すると——、風がたくさん待っていた。
太陽は雲の向こうに隠れ、
昨日までの暑さが嘘のように涼しい。
風が気持ちいい。
「風さん、お待たせ。もう買い物終わったよ。
一緒に家まで帰ろう」
歩きながら、さっきのことを報告した。
「待たされてイライラして、
ちょっと怒っちゃった。
いつも笑顔でいようって思ったばかりなのに、
早速やっちゃったわ」
すると風は、
私の髪をふわりと揺らしながら、
優しく頭を撫でてくれた。
——そんなこともあるよ。
気にしなくても大丈夫。
大切なのは、自分で気づくことなんだから。
そんな声が聞こえたような気がした。
朝、少し尖っていた私の心を、
家族がかけてくれた
一枚のブランケットが温めてくれた。
午後、また少し尖ってしまった私の心を、
今度は風が優しく撫でてくれた。
人の優しさに触れて、
笑顔でいたいと思う。
それでも、ときどき忘れてしまう。
忘れたら、また思い出せばいい。
風はきっと、
そんな私の失敗まで笑いながら、
一緒に連れて帰ってくれる。
さあ、帰ろう。
ものすごく、お腹が空いた。
こんなに時間がかかる
予定じゃなかったんだから。
風さん、今日は少しだけ急いで。
家に帰ったら、
まずは遅すぎるお昼ご飯。
さて——。
あれだけ買ったご馳走の中から、
私はいったい、何から食べよう。
風に撫でられて、帰ろう✨
勃つねで応援-
-
共有で応援