やっと自宅にたどり着いた。
行って帰って、ほんの三十分か小一時間。
そのくらいのつもりだったのに、
結局二時間近く
かかってしまったような気がする。
それに今日は、
風があまりにも気持ちよかった。
両手にたくさんの荷物を下げながら、
それでも風に誘われるまま、結構歩いた。
その代償なのだろうか。
右足には、
どうやら靴擦れができてしまったみたい。
明日からはバンドエイドの
お世話にならなくてはいけないかな。
風さんと一緒に帰ってきたのはいいけれど、
玄関を入った途端、
もう我慢できなかった。
お腹が空いた。
ごめん、風さん。
私はあっさり風を見放して、食い気に走った。
買ってきたニシンと茄子の揚げ浸しを、
パクパク食べる。
ご飯は、どうやら私のために
全部冷凍してくれていたようで、
すぐに食べられるものがなかった。
だから、揚げ浸しだけ。
ちょっと味が濃くて辛かった。
そのあと、家族が作ってくれていた
ゆで玉子を二個食べた。
今朝は朝玉子をしていなかったから、
その分まで取り返したような気分。
とりあえず、お腹は満たされた。
さあ、洗濯物を取り入れよう。
朝に干した洗濯物は、
もうカラカラに乾いていた。
猛烈な太陽に焼かれて乾いたのではなく、
今日は風に乾かしてもらったような気がする。
風で乾いた服は、
なんだか生地まで気持ちよさそうに見える。
お腹が落ち着いたところで、
ようやく思い出した。
あっ。風さん、置き去りにしてた。
でも、私の風はちゃんと
私の行動を読んでいたらしい。
食べ終わった頃を見計らったように、
ベランダへ遊びに来てくれた。
「ごめんね。お腹空きすぎてたの」
風は何も言わず、
洗濯物と私の髪を一緒にふわりと揺らした。
ああ、お腹いっぱい。
時刻は、もうすぐ16時。
家族は18時半くらいに
晩御飯がいいと言っていた。
この分だと、私は昨日と同じ、
うな十そばにするのだろう。
今日買ったうなぎは小さめだから、
一匹全部のせてしまってもいいかもしれない。
だって、西の方のうなぎの蒲焼きは、
横浜へ行ったらしばらく食べられない。
おそらく、ニシンと茄子の揚げ浸しもそう。
こちらで食べられるものは、
今のうちに思いっきり食べておこう。
そんな意気込みだけは十分にある。
ただし——。
今は、お腹の方がまったくついてきていない。
しばらく食べ物のことは忘れよう。
洗濯物を畳んで、
アイロンをかけたら、
しばらくソファーでごろごろしながら
テレビでも観よう。
そして17時半頃になったら、
お風呂に入ろう。
そう思って歩数を見ると、
すでに二万二千歩を超えていた。
距離も15キロを超え、もうすぐ16キロ。
そりゃあ、靴擦れもできる。
足も疲れるはずだ。
今日はもう、十分歩いた。
だから少しだけ、
何もしない時間を自分にあげよう。
……そうだ。
食べ物のことはしばらく忘れようと
思ったばかりだけれど、
食後のデザートに、
虎屋の羊羹くらいならいいだろう。
久しぶりに、
ホットコーヒーも淹れようかしら。
窓の向こうでは、
さっき置き去りにしてしまった風が、
何事もなかったように遊んでいる。
羊羹と、温かなコーヒーと、風。
横浜へ旅立つ前のこの町で過ごす時間も、
だんだん残り少なくなってきた。
今はただ、
風の通る部屋で足を休ませながら、
この何でもない午後を、
ゆっくり味わっていたい。
置き去りにした風✨
勃つねで応援-
-
共有で応援