風さん、日記が書けたら
一緒に待機所へ戻ろうね。
なんて言っていたのだけれど、
日記を書いている途中で、
また次のご予約をいただいた。
嬉しい。
すごく嬉しい。

でも、ここでひとつ問題が。
私の予定では、
風さんと一緒に待機所へ戻って、
晩御飯のおにぎりを1個
食べるはずだったのだ。

ご予約のお時間まで、あと20分。
待機所へおにぎりを取りに行って、
ここへ戻ってくるまで約10分。
そこに食べる時間を足したら……ギリギリか。

頭の中で、せっせと時間を計算する。
だからといって、
またコンビニへ
何かを買いに行く気にもならない。
だって、ちゃんとおにぎりを
持ってきているんだもの。

だったら、取りに帰ろう。
「風さん、とりあえず日記はまだ途中だけど、
おにぎりを取りに帰るわ」
そう言って、急いで待機所へ戻り、
おにぎりをひとつ持って、また外へ。

ビルの陰にちょこんと隠れて、
写メ日記を書きながら、
おにぎりを頬張った。
なんだか今日の私は、
日記とご予約とおにぎりの間を、
行ったり来たりしている。

そして、ちょうど日記を書き終えた頃、
あなたがお部屋へ入られたようだった。

それから、次のドアが開きました。
優しくて、気さくな笑顔が
素敵なあなたが迎えてくださいました。

「はじめまして、森村です。
今日はありがとうございます」
そうご挨拶すると、
「こちらこそ、よろしくお願いします」と、
とても丁寧に応えてくださった。
その言葉や佇まいから伝わってくる
誠実なお人柄に、
初めてお逢いしたばかりなのに、
なんだかとても好ましい気持ちを抱いた。

横並びのソファに並んで座り、
自己紹介を交えながら、
しばらく二人でお話をした。
ずっと敬語で、とても丁寧に話されるあなた。
だからなのか、
私までいつもより
少し緊張していたような気がする。

そんな空気をほどくように、
ふっと私の方からあなたに触れた。
あなたの心地よいところは、どこかしら。
探しながら、
探しながら、
ゆっくり、丁寧に、
優しく触れていった。

「気持ちいい」
そう何度も言ってくださるのが嬉しくて、
私まで幸せな気持ちになった。

そして、今度は交代。
私の番。
あなたの優しいタッチと、
温かな手の心地よさに、
いつの間にか私の方が
すっかりとろけてしまっていた。
もしかしたら、
私の方がいっぱい感じていたかもしれない。

長い時間、あなたの優しさに包まれ、
そして、いっぱい抱きしめていただいた。
まるで心地よい風に包まれながら、
真夏の夜の夢を見ていたような時間だった。
また、お待ちしています。

お別れして外へ出ると、
街にはもう夜の帳が下りていた。
飲食店街のネオンが、
夜の中で鮮やかに輝いている。

そこへ、すうっと風が吹いてきた。
ああ、気持ちいい。
夏とは思えないほど、柔らかくて涼しい風。
フレンチスリーブのブラウスの広い袖口から、
すうっと風が入り込み、
火照った身体の中を通り抜けていく。
昨日は少し寒いくらいだったけれど、
今日はちょうどいい。
もしかしたら、
室内にいるより
外にいる方が快適かもしれない。

「風さん、お待たせ。
やっと待機所へ戻れるわ」
そう話しかけてから、すぐに付け加えた。
「でも、もうちょっと待って。
この日記を書き終えてからね」

風さんは、にっこり頷いたような気がした。
そして、私の周りをそよそよと漂いながら、
――また、ご予約が入ったりしてね。
なんて言っているような気もした。

それはもちろん、とっても嬉しい。
嬉しいんだけどね、風さん。
とりあえず今は待機所へ帰って、
晩御飯の最後のおにぎりを食べたいの。
そして、ほんの少しでもいいから、
睡眠貯金もしたい。
だから風さん、
今度こそ一緒に帰ろう。
……なんて言っているそばから、
また次のドアが開いたりして。