目が覚めたら、そこは待機所だった。
時刻を確認すると、21:40。
寝たのは、たしか18時過ぎでは
なかっただろうか。
お客様とお別れして、日記を書き上げて、
少し早めの晩ごはんに
モチュッパのおにぎりを食べた。
そして、そのまますぐに
眠ってしまったのだと思う。
途中、一度だけふと目を覚ましたけれど、
またすぐに眠った。
起きたばかりの頭はぼんやりしていて、
今が何時なのか、
どれくらい眠っていたのか、
すぐにはよく分からなかった。
平たく言えば、私は寝てしまったのだ。
それも、三時間半ほど。
いつもなら、
こんなふうに長い時間お声がかからなければ、「今日は暇だったな」と
少し寂しく思うところなのだけれど、
今日だけは違った。
眠れてよかった。
本当に、そう思った。
ずっと眠くて、頭もそろそろ限界だった。
待機所へ戻ってきたときも、
自分がどこを歩いているのか
分からないくらい、
ふわふわと宙をさまよっているような
感覚だったから。
だからきっと、この三時間半は、
身体が私にくれた休息だったのだと思う。
ずっと中で眠っていたから、
急に風さんに逢いたくなった。
だって今日は、
ホテルへ出かけることもなかったから、
風さんを呼ぶ機会がなかったもの。
外へ出ると、
ふわあ。
ふわあ。
ふわあ。
待っていたように、
風さんが私のところへやってきた。
「どうしたの。
今日は全然出てこなかったじゃないの」
そんなふうに風さんが
言っているような気がした。
「お声がかからなかったから、
ずっと中で寝ていたの」
そう答えると、
風さんは私の身体を包み込むように、
そっと吹いた。
まるで、ぎゅっと抱きしめて
くれているみたいだった。
「大丈夫よ。
ずっと眠そうだったもの。
ゆっくり休めたと思えばいいじゃない」
そんなふうに慰めてもらった気がした。
実は、私もそう思っていた。
風さんからは、
ほのかに焼き物の香りが残っていた。
でも、魚を焼いた香りではない。
どう考えても、これは焼肉の香り。
うふふ。
風さん、もしかして間違えて
焼肉のお店に入ってしまったのかしら。
そんな少しドジなところが、
なんだか私と似ている。
やっぱり、昔から一緒にいる私の風さんだ。
でも、ありがとう。
おいしい香りをありがとう。
優しさをありがとう。
そう心の中で伝えると、
風さんは照れたように、
ふわりと身をほどいた。
そして、そのまま空へ高く舞い上がり、
くるくると回りながら吹いていた。
少し、はにかんで笑っているみたいだった。
一生懸命なのに、ちょっぴりドジ。
そんなところまで、私に似ている。
やっぱり、ずっとそばにいると
似てくるものなのかしら。
寝ているあいだに、
いつの間にか夜の帳が降りていた。
待機所へ戻ってきたときは、
まだ夕暮れ前だったはずなのに。
私が眠っていた三時間半を、
そのまま空が演じてくれたみたいに、
街はすっかり夜の色になっていた。
ふと、夜空を見上げた。
そういえば今日は、
母を偲んで空を見上げようと
思っていたのだった。
すっかり眠ってしまって、
その時間を逃してしまったけれど、
夜空を見上げたその瞬間、
不思議なくらい自然に母のことを思った。
昼の空でなくてもいいのかもしれない。
思い出した、そのときの空が、
きっと母につながる空なのだから。
しばらく黙って、夜空を見上げた。
風が、また私に向かって吹いてくる。
強くはない。
ほんの、そよ風くらい。
それでも風は私の身体にやさしく絡みつき、
眠っていた身体を
少しずつ現実へ連れ戻してくれる。
少し寒い。でも、気持ちがいい。
ぼんやりしていた寝起きの頭が、
だんだん、だんだんと目を覚ましていく。
さて。横断歩道を渡って、
コンビニにでも行ってみようかな。
何か、買ってこよう。
寝ているあいだに、夜が来た✨
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