コンビニで買い物をしていたら、
お店からメールが届いた。
どうやら、お仕事が入ったみたいだ。
時刻を確認すると、
おそらくこれが今日最後のドアになるだろう。
急いで待機所へ戻り、
自分の居場所を片付けて、
終わったらすぐに帰れるように支度を整えた。
そして、そのまま急いでホテルへ向かった。
突然慌ただしくなった私に驚いたのか、
風さんがびっくりした顔でそばへ寄ってきた。
風さんと一緒に、
「千鳥」を聴こうと思ってイヤホンをつけた。
けれど、夜の大通り公園を歩きながら
空を見上げていると、
私の心の中では、
もうすでに「千鳥」が流れていた。
耳から聞こえるよりも先に、
心の中で鳴っていた。
そして、その空を見上げながら、
もう一度、亡き母の面影を追った。
昼の空ではなかったけれど、
今夜の空もまた、
母へとつながっているような気がした。
風さんと一緒に、
しばらく夜空を見上げながら歩いた。
海の香りがした真夏の夜
最後のドアが開いた。
「わあ、お久しぶり。
逢いに来てくださって、すごく嬉しい」
そう言って迎えると、
「いや、お久しぶりです。
よろしくお願いします」と、
あなたは、丁寧な言葉を返してくださった。
私にまで敬語を使われるものだから、
相変わらず丁寧な方だな、
と思わず心の中で微笑んだ。
前回お会いしたときにも思ったけれど、
あなたはとても優しくて、スマートで、
お話も楽しい。
そして何より、
いつも私を居心地のいい気持ちに
させてくださる。
年も、そんなに変わらないだろう。
そんなことを思いながら、
久しぶりに逢えた
喜びを噛み締めるように、
いろいろな話をした。
学校給食の話、楽しかったわね。
子どもの頃に好きだったもの、
苦手だったもの。
話してみれば、
お互いにいろいろな好き嫌いがあって、
「それはわかる」
「私はそれは苦手だった」なんて言いながら、
話は次から次へと広がっていった。
こういう何気ない話をしている時間が、
私はとても好きだ。
ふと時計を気にして、
ちょっとお話ししすぎたかしら。
そう思ったところで、
ようやく二人でベッドへ。
「今日はお任せします」
あなたがそうおっしゃったから、
では、任せてください。
そんな気持ちで、
私からそっとあなたに触れていった。
急がず、優しく、撫でるように。
あなたは何度も、
「気持ちいい、気持ちいい」
と言ってくださった。
その言葉を聞くたび、
ちゃんと感じてくださっていることが
嬉しくなる。
そしていつの間にか、
気持ちよさそうにしているあなたのお顔を、
ずっと魅つめていることそのものが、
私の喜びになっていた。
今度は、あなたが私に触れてくださる。
私もその優しさを感じながら、
あなたの腕の中へ。
抱かれて、抱きしめて。
二人で熱く抱きしめ合いながら、
久しぶりに流れるあなたとの時間を、
ゆっくり味わった。
不思議だった。
そこは海辺でもないのに、
なぜだか海の香りがするような気がした。
暑い、真夏の夜。
その中に、ほんの少し
潮の香りが混じっているような——
そんな夜の夢。
どうしてだろう。
そう考えて、ふと思い当たった。
きっと、魚釣りの話やSUPの話を
していたからなのかもしれない。
話しているうちに、
私の心の中に海が広がっていたのだろう。
ぜひSUP、体験してみてください。
すごく楽しかったですよ。
そんな話までして、また少し笑った。
今日またこうしてお逢いできたことが、
とても嬉しかった。
それでは、またお逢いできる日を
楽しみに待っています。
そして——今日の最後のドアが閉じた。
外へ出る。真夏の夜の空気に触れた瞬間、
風さんが私を迎えに来てくれた。
「お疲れさま。
今夜も楽しい時間を過ごしたようね。
あなたの顔、とっても生き生きしているわ」
そうなの。なんだか、すごく楽しかったの。
だから、あっという間に時間が過ぎちゃった。
もちろん、
素敵な方と過ごした時間だったからだと思う。
でも——もしかしたら、
3時間半の睡眠貯金が
効いているのかもしれないわね。
そんなことを風さんに話しながら、
少し笑った。
ドアの向こうに残してきたのは、
久しぶりに逢えた喜びと、たくさんの笑い声。
そして、まだ心のどこかに残っている、
かすかな海の香り。
「それでは、一緒に待機所へ帰ろう」
そう風さんに声をかける。
真夏の夜の風が、
私の髪をふわりと揺らした。
私はその風と並ぶように歩き出した。
海の香りがした真夏の夜。
その余韻を、
もう少しだけ心の中に残したまま。
海の香りがした真夏の夜✨
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