今朝起きたのは4:49。
眠るのが予定より約20分遅くなって、
起きるのも約20分遅くなった。
歩きながら、思わず笑ってしまった。
どうしても4時間眠りたいという私の思いを、
頭のどこかが勝手に知っていて、
帳尻を合わせてくれたのだろうか。
以前の私なら、
寝坊したと気づいた瞬間から焦っていた。
どうしよう。
コースを修正しなくちゃ。
朝そば、朝そば。
時間がない。
時計ばかりを気にしながら、
前だけを向いて歩いていた。
でも、朝そば時間を手放した今は違う。
4:49に目を覚ましても、焦らなかった。
ゆっくり支度をして、外へ出た。
すると、不思議なくらい、
いろんなものが目に入ってきた。
鳥の声。
木々。
建物。
朝の空。
高層マンションの上の方だけを
照らしている太陽の光。
まだ太陽そのものは見えない。
けれど、高いところから
少しずつ光が降りてきている。
もう少しすれば、
街全体が朝の光に包まれ、
通勤する人たちが歩き始めるのだろう。
その一人一人にも、暮らしがある。
それぞれ違う思いを抱えて、
それぞれ違う色の朝を迎えている。
そう考えると、
ただの建物だったマンションが、
人の呼吸や思いや生活をいっぱい抱えて、
少し膨らんで見えるような気がした。
昨夜、私は少し腹を立てていた。
ほんの些細なやり取りだった。
何を言われたか、
その内容自体は大したことではない。
ただ、その言い方と態度が、
なぜか心に引っかかった。
「どうして、そんな言い方を
されなければならないのだろう」
そんな小さな棘のようなものが、
昨夜から心の片隅に残っていた。
昨夜、私は少し腹を立てていた。
朝になっても、ときどき思い出した。
この野郎。
そんな気持ちで空を見上げると、
建物と建物の狭間に浮かんだ雲が、
人の横顔に見えた。
気持ちよさそうに眠っているようにも、
倒れているようにも見える。
私は思わず、その雲へ向かってパンチをした。
すると、ちょうど風さんがやってきた。
「おはよう。何、そのポーズは?」
「ううん、ちょっとパンチしてみたの」
「何かあったの?」
「ううん。もういいの」
そう言ったけれど、
本当はまだ完全に「もういい」ではなかった。
少し歩けば、またふっと思い出す。
この野郎。
そしてまた歩く。
すると鳥が鳴く。
またふっと思い出す。
すると風さんがやってくる。
また思い出す。
すると朝の空が輝く。
そうしているうちに、
不思議なことに気づいた。
思い出すまでの間隔が、
だんだん長くなっている。
鳥の声と、風と、空と、朝の光が、
嫌な記憶と嫌な記憶の「あいだ」を
少しずつ広げてくれている。
そして世界が広く魅えるようになるほど、
腹を立てていた一人の人間が、
私の世界を占める割合は
どんどん小さくなっていった。
豆粒くらいになっていた。
まあ、その豆粒が足元に転がってきたら、
まだぎゅっと踏みつぶしたいくらいの
気持ちは残っているけれど。
でも、そのうち、
それさえ忘れてしまうのだろう。
地下鉄の出口の前を通った。
本当に5番出口だったかしら、
と気になって少し戻ってみた。
やっぱり5番出口だった。
そのおかげで、
いつもとは反対方向に
身体を向けることになった。
さっき自分が歩いてきた道を、改めて眺める。
青い空。
朝の光を受けて輝く高層階の窓。
私が通り過ぎてきた道なのに、
向きを変えるだけで、全く違う景色に見えた。
昨日気づいたことを、また思い出した。
同じ道を戻ったとしても、
それは過去へ戻ることではない。
戻ったその場所からだって、
未来を見ることができる。
『千鳥』を聴きながら、
港へ向かう緩やかな坂道を歩いた。
今日は、いつもなら見落としているような
小さな建物までよく目に入った。
クリーニング屋さん。
ジンギスカン屋さん。
小さなビル。
ホテル。
マンション。
今までの私は、早く海へ行きたい、
空を魅たい、
イチョウを魅たいと、
遠くばかりを見ていたのかもしれない。
でも今日は、足元にも世界があった。
私が幸せを感じているこの空の下で、
私だけが生きているわけではない。
鳥もいる。
木々もある。
花も咲いている。
そして、建物の中にはたくさんの人がいる。
働いている。
眠っている。
目を覚ましている。
笑っている。
悩んでいる。
怒っている。
みんな同じ空の下で、
それぞれの一日を生きている。
そう思うと、生命というものの大きさが、
急に目の前へ広がった。
新港中央広場では、
色とりどりの花が迎えてくれた。
赤、黄色、ピンク、
オレンジ、白、紫。
昨日は少し元気がないように見えた
サルスベリも、
少し離れて眺めると、
まだまだ綺麗に花を咲かせていた。
もしかしたら私は、
元気のないところばかりを
見ていたのかもしれない。
一本一本の花に、おはよう。
そう心の中で声をかけた。
ひまわり。
そして、昨日見つけたカンナ。
みんな今日も生きている。
呼吸している。
それなら私も、
この中の一本になったつもりで、
今日一日を生きてみようと思った。
海へ出ると、空がますます美しくなった。
今日はピンクゴールドでも、黄金色でもない。
透き通るような青。
そして純白の雲。
さっきの顔のように見えた雲は、
太陽に少しずつ溶かされ、
形を失っていた。
ざまあみろ。
一瞬そう思って、また笑った。
でも、もういい。
あの人だって、あの人なりに
一生懸命生きているのだろう。
そう思えるくらいには、
もう私の世界の中で、
小さな存在になっていた。
その代わりに現れたのは、
ぐるぐると渦を巻く巨大な雲だった。
まるで大きな掃除機。
朝のあちらこちらに漂っている、
いらないもの、
もやもやしたものを全部吸い込んで、
大空へ運んでくれているようだった。
そこへ風さんもやってきた。
もしかして、
あなたもあの大きな掃除機の中で、
お掃除を手伝っているの?
そんなことを言いたくなった。
6:15。大桟橋へ入った。
正面から風が吹いてきた。
一歩進むたび、風は強くなった。
普通なら「向かい風」と呼んで、
少し嫌がるような風なのかもしれない。
でも今朝は違った。
正面から吹きつける風が、
私の心に残っていた
最後の濁りまで
洗い流してくれているように感じた。
太陽の光が水面に一本の筋を描いている。
その光の道は、
私の方へどんどん太く伸びてくる。
もっと広い景色を魅なさい。
もっと広い世界を感じなさい。
そんな小さなことにこだわっていたら、
見えるものまで見えなくなってしまうわよ。
そう言われているようだった。
いつもなら一本の木を魅ていた場所で、
今日は木々の群れが見えた。
その向こうには街があった。
ビルがある。
家がある。
その一つ一つに、人がいる。
暮らしている。
働いている。
呼吸している。
そして、もしかしたら、
その中の誰かと
私はいつか巡り逢うのかもしれない。
人と人が巡り逢うこともまた、
不思議な生命の営みなのだと思った。
そして、心のサンクチュアリーへ着いた。
今日は、いつものように
海や太陽だけを見るのではなく、
背中側に広がっている空を魅たくなった。
柵に背中を預け、ゆっくり天を仰ぐ。
空は、歩き始めた頃から一枚、
また一枚と、白いベールを脱いでいた。
そして今、
最後の一枚まで脱ぎ終えたようだった。
そこに広がっていたのは、
限りなく透明に近いブルースカイ。
何も遮るもののない、
澄み切った青だった。
空は、人の心を映す鏡なのかもしれない。
心にもやもやを抱えていれば、
雲はいろんな形に見える。
腹が立っていれば、人の姿にだって見える。
でも心が少しずつ滑らかになっていけば、
空もまた、一枚ずつベールを脱いでいく。
世界が変わったわけではない。
きっと、私の魅る世界が変わったのだ。
だから今日も、
美しいものを、美しいと感じよう。
人の真心を、美しいと感じよう。
誰かの笑顔を、美しいと感じよう。
そして私も、
このたくさんの生命の中の一つとして、
今日という一日を生きていこう。
限りなく透明に近いブルースカイの下で。
今日の未来を、また一歩ずつ歩いていこう。
世界が広く見えた朝✨
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