21時頃、自宅に帰ってきた。
11日ぶりの我が家。
家族は、とても喜んでくれた。

本当は昨日、帰るはずだった。
けれど、
自分の予定で滞在を一日延ばしてしまった。
それをなかなか言い出せないまま、
ぎりぎりになって、
「仕事が片付かないから、一日遅くなる」
とLINEを送った。
返ってきたのは、
「わかった」それだけだった。

寂しいとも、
悲しいとも、
どうしてとも言わない。
だからこそ、
その短い言葉の行間にあるものが、
私にはなんとなくわかるような気がした。

帰ったら、
どこか素敵なところへ食事に連れて行こう。
そう思って選んだのが、
静かで上質なフレンチレストランだった。
私は何度か訪れたことがあるけれど、
家族は初めて。

せっかくなら、と少し奮発して、
一番上のコースを予約した。
今夜は二人ともお酒を飲まない。
だったら、
そのぶんお料理を思いきり楽しめばいい。
そんな小さな言い訳を自分にしながら、
今日はちょっと頑張った。

家族はブルーのレースの
エレガントなワンピース。
私は濃いグレーのシックなワンピース。
久しぶりに二人で少しおしゃれをして、
特別な夜へ向かった。

広々としたダイニングには、
静かで上質な空気が流れている。
大きなガラス窓の向こうには、
緑の山々と、歴史を重ねてきた建物の姿。

古いものと新しいもの。
和と洋。相反するはずのものが、
不思議なほど美しく溶け合っていた。

そして、夕暮れ。
ガラスの向こうの空が、
ゆっくりと色を変えていく。
赤銅色に染まる空。

この11日間、
私は毎日のように空を見上げ、
風と話し、
たくさんの色を心の中に拾い集めてきた。

けれど今宵見つけたこの色は、
少し違っていた。
それはきっと――家族の色。
離れていた時間。
待っていてくれた時間。
何も言わず「わかった」と
返してくれた優しさ。

そんなものが全部溶け合って、
赤銅色の空になったように思えた。

お料理が一皿、また一皿と運ばれてくる。
そのたびに、「わあ、きれい」
「これは何だろう」
「おいしいね」
会話がひとつ、
またひとつ増えていった。

一皿一皿は、
味わうだけではなく、
目でも楽しませてくれる。

繊細に重ねられた味わいが、
口の中でゆっくりとほどけていく。
ワインがあれば、
料理とのマリアージュを楽しめたのだろう。 

けれど今夜は、それでいい。
グラスを傾ける代わりに、
私は目の前にいる
家族との会話を味わっていた。
一皿ごとに増えていく笑顔。
一皿ごとに戻ってくる、
いつもの二人の時間。

気がつけば、
11日という空白が
少しずつ埋まっていくようだった。

そしてふと、ガラスの向こうを見る。
風さんがいた。
ずっと一緒だった風さんが、
今夜はガラスの外から
こちらを覗き込んでいる。

「今日は入れないの?」なんて、
少し羨ましそうな顔をしているように見えた。
ごめんね、風さん。
今夜だけは、ここから見ていて。
今日は、家族との時間だから。

たくさんの景色を拾い、
たくさんの人と逢い、
たくさんの色を
心のサンクチュアリーへ持ち帰ってきた。
そして最後に待っていたのは、
いちばん近くにあった温かな色だった。

家族のぬくもり。
家族の優しさ。
お互いを思いやる心。
言葉にしなくても伝わるもの。

11日ぶりに帰った夜の夕暮れが、
そんな色をそっと私の心に加えてくれた。
今宵、
私の心のサンクチュアリーに加わったのは――
赤銅色に染まる、家族の色。