朝ごはんは、
初めて食べるトマト・アボカド・バジルナン。
ナンの上には、
トマト、アボカド、ズッキーニ。
彩り豊かな夏野菜を、
溶けたチーズがやさしく包んでいる。
ナンを見ていると、
ふいに遠い記憶が蘇ってきた。

以前、家族と訪れたインドカレーのお店。
注文したナンがなかなか出てこなくて、
待って、待って、
少しイライラしていた私に、
家族が頬杖をついて笑った。
「これもインド時間よ」
その一言で、なぜか気持ちがふっとほどけた。
それなら私もインド時間で待ってみよう。

ようやく運ばれてきたナンは、
ところどころに香ばしい焦げ目がつき、
熱々で、ふわっとして、もちもち。
ちぎって、
少し辛いインドカレーにつけて食べた。
おいしかったなあ。
そんな遠い記憶が、一枚のパンから、
すうっと心の奥から浮かび上がってきた。

今日のナンを少し温めて、ひと口。
あの焼きたての香ばしさとは違うけれど、
もちっとした生地に、
チーズと夏野菜が溶け合っておいしい。
そして今日は、味だけではない。

あの日のナン。
カレーの辛さ。
待った時間。
家族の笑顔。
「インド時間」という言葉。
そんな記憶までおかずにしながら食べている。

心の奥にしまわれたものは、
やっぱり消えてはいないんだ。
何かをきっかけに、
まるで今そこにあるように蘇ってくる。

たかがパン、されどパン。
遠い記憶を目覚めさせた今朝のパンが、
今日の心のキャンバスに、
また一つ新しい色を重ねてくれた。