長い長い時間を
一緒に過ごしたあなたとお別れした。
離れていくのが名残惜しくて、
何度も何度も振り返っては手を振った。
あなたは立ち止まったまま、
ずっと私を魅つめ、手を振ってくれていた。

さっきまで二人を包んでいた、
あの濃い「恋の色」
その余韻を胸いっぱいに抱えながら、
私は次のホテルへと歩き始めた。

すると、
どこかへ行っていた風さんが戻ってきた。
「あら、次のお仕事が入ったの?」
「そうなの」
「今度は何色の世界が広がっているのかな。
楽しみね」
「そうね。風さんも楽しみにしていてね」

そんなことを話しているうちに、
次のドアが開いた。
お久しぶりに逢えたあなた。

「あら、また逢いに来てくれたのね」
それだけで、なんだかとても嬉しかった。
かなり年の離れたあなたなのに、
初めて逢った時から、
その素直さがとてもかわいらしい。

今週はとても忙しかったという
仕事の話を聞いているうちに、
ぼんやりとあなたの仕事の輪郭が見えてきた。
そして、
あなたがぽろりとこぼした一言を拾った瞬間、
ああ、やっぱりね。
そう思った。

年齢はずいぶん違うのに、
なぜかあなたとは波長とリズムが合う。
そこから二人の間を、
専門用語がくるくると飛び交い始めた。

クラウド。
仕事の世界では別の意味を持つその言葉が、
私の心の中ではいつの間にか、
本物の「雲」になっていた。

白いクラウドが一つ、
また一つ。
二人の言葉を乗せて、
爽やかな青空へ浮かんでいく。
気がつけば私たちは、
青い空に浮かぶ雲の城へ、
一緒に飛んでいったみたいだった。

今宵のあなたは、爽やかな青。
そして二人の間には、真っ白なクラウド。

私はそっとあなたに触れた。
私の指先に
あなたが応えてくれるのがわかると、
なんだか嬉しくなった。
かわいらしい顔をじっと魅つめているうちに、
もっともっと可愛がってあげたくなって、
いつの間にか私の方が夢中になっていた。

ぎゅっと抱きしめる。
伝わってくるあなたの温もり。
さっきまで空を飛び回っていた
言葉たちは静かになり、
今度は温もりだけで
心と心が話しているようだった。

別れ際のおしゃべりも、
やっぱり楽しかった。
年齢は違うのに、話が合う。
そして何より、
二人にしかわからない言葉の意味を、
説明しなくてもわかり合える。
そんな近さが、私は嬉しかった。

青い空いっぱいに広がっていく、
白いクラウド。
一つだった雲と、
もう一つの雲が重なって、
大きな一つの雲になっていく。
まるで私とあなたの心みたい。

そして、あなたとお別れした。

外へ出ると、また風さんがやってきた。
「風さん、お待たせ。
そろそろ待機所へ戻ろう」
そう言いかけて、私は続けた。
「でもね、あと20分ほどしたら、
もう一つ、今日最後のドアが開くの。
だから、その時はまたついてきてね」

ところが——。
どうやら、もうお客様が入室されたみたい。
「あら、ちょっと早いわね」
待機所へ戻りかけていた足をくるりと返し、
私はそのままホテルへ向かった。

爽やかな青と白のクラウドを心に残したまま。

さて。
今日最後のドアの向こうには、
いったい何色の世界が待っているのだろう。