長い一日が終わろうとしている。

今日という一日を振り返ってみると、
出来事よりも先に、
いくつもの色が心に浮かんでくる。
一つの色に染まったと思えば、
また違う色が生まれる。

けれど前の色は消えない。
重なって、透け合って、
時には溶け合いながら、
今日という一枚のキャンバスを
少しずつ鮮やかにしていった。

最初のドアの向こうにあったのは、
少し薄暗い雲の色だった。
まだお互いを知らない二人の間にあった、
ほんの少しの距離。
けれど言葉を交わすたび、
その雲は少しずつ薄くなっていった。

魅えてきたのは、飾らない、まっすぐな心。
その心に触れるほど、
私の中には不思議なほど
優しい気持ちが湧いてきた。
包んであげたい。
愛おしい。
そんな思いが胸の中に灯った時、
薄暗かった雲の隙間から、
一筋の光が差した。

金色の光。
最初から輝いていたのではない。
心と心が近づいたからこそ
見つけることのできた金色だった。

その光の余韻を胸に、次の世界へ向かった。
そこで心に生まれたのは、
一言では表せないほどさまざまな色。
泡のような白。
真珠の柔らかな輝き。
ローズピンク。
そして、温かな金色。

時間を忘れるほど心が近づいていくにつれて、
それぞれの色が溶け合い、
もう何色とも呼べなくなっていった。
だからこそ、
心からこぼれた言葉は——恋の色。

あとになって、
海の泡から生まれた
愛と美の女神アフロディーテを思った。
恋とは、最初から決められた
一色ではないのかもしれない。
心が揺れるたび、
近づくたび、
離れがたくなるたびに色を変え、
最後には名前のない色になる。
その名前のない色に、
私は「恋」と名づけたのだろう。
そして、その濃い余韻を抱えたまま

次のドアを開くと、
心はふわりと空へ舞い上がった。
今度は、爽やかな青。
言葉と言葉が軽やかにつながり、
違うはずの二つのリズムが、
不思議なくらい同じテンポを刻んでいく。 

やがて言葉は白いクラウドになり、
青空を自由に漂い始めた。
心まで雲に乗ってしまったような、
軽やかなクラウドブルー。
濃密だった恋の色から、
どこまでも透き通る青へ。
こんなにも違う色を、
同じ一つの心が感じられることが面白かった。

そして今日最後のドアの向こうでは、
その青が今度は海になった。
空へ昇っていった青から、
果てしなく広がる海の青へ。
白い波が寄せては返すように、
心も静かに揺れる。

どこまでも続く水平線へ向かって、
心まで一緒に漕ぎ出していくような
オーシャンブルー。
同じ青なのに、空の青とはまるで違う。

軽やかに浮かぶ青もあれば、
深く身を委ねたくなる青もある。
今日の私は、心が動くたびに、
知らなかった色を一つずつ見つけていた。

そして、
それぞれのあなたと過ごした時間が終わると、
そろそろ今日の物語も最終章に入った。

風さんと歩きながら、
心の中をそっと覗いてみる。
金色の光。
恋の色。
クラウドブルー。
オーシャンブルー。

もう、どの色がどこから始まり、
どこで終わったのかわからない。
一つの色が次の色へ溶け込み、
またその色が次の色を引き立てながら、
私の中に今日だけの色彩をつくっている。

「あなた、いろんな色の世界を魅て、
とっても輝いているようよ。
心の中が鮮やかよ」
風さんの言葉に、なんだか納得した。
そうね。

今日、色を魅せてくれたのは、
それぞれのあなた。
でも、その色を魅つけたのは、
私の心だったのかもしれない。

心が動けば、世界には色が生まれる。
誰かの心に触れて金色を見つけ、
心が溶け合って恋の色を知り、
言葉がつながって空の青へ浮かび、
温もりに心を委ねて海の青へ漕ぎ出した。

一日の始まりには、
まだ何色になるのかわからなかった
今日というキャンバス。
今、そのキャンバスはこんなにも鮮やかだ。

「さあ、風さん。帰ろう。
今日は忙しかったから、
書きたいことも、
日記もいっぱいたまっているのよね」
そう言って歩き出す。

胸の中には、
今日出逢ったすべての色を抱いたまま。
最後のページは、どう書き記そうか。