メイクを済ませた。
あとは洗濯物ができるのを待って、
それを干したら朝の支度は完了。
残るは着替えるだけ。

ふと時計を見ると、まだ9時45分だった。
出勤は12時から。
今日のスケジュールは真っ白。
今のところ何のご予約も入っていない。

私は、いったん決めたことを
当日になって急に変えるのが
あまり好きではない。
だから今日も、
絶対12時には出勤しようと思っていた。
でも、いざ横になってみると、
一時間ほど眠ったくらいでは、
この重たい身体は
元に戻らないような気がした。

昨夜は座ったまま眠ってしまい、
途中で目を覚ましてベッドへ入ったものの、
睡眠時間は短かった。
しかも食べすぎ、飲みすぎ。
眠っている間も、
体の中では臓器たちが
必死になって働いていたのかもしれない。
眠ったはずなのに、
ぐっすり眠った感じがしない。

少し迷った。
でも今日は、決めた時間を守ることよりも、
今の身体をちゃんと
休ませることの方が大切なのかもしれない。

そう思って、お店にメールをした。
「今日の出勤を14時からに
変更させてください」
これで今からなら、
三時間ほど眠れる。

三時間あれば、
身体も少しは回復するだろう。
ぼんやりした頭も、
重たい胃も、
少しずつ元の場所へ
戻ってくれるかもしれない。

少しだけお腹が空いてきたので、
持ってきていたゆで卵を二つ食べた。
これで、ゆで卵もおしまい。
二つ食べただけで
すっかりお腹いっぱいになり、
カイザーサンドにはまだ手が伸びなかった。

コーヒーを飲みながら、ふと思う。
振り返れば、
今回の横浜では毎日のように
ビールをいただいていたような気がする。
ほどほどなら、おいしい。
でも調子に乗って飲みすぎると――
今朝の私の出来上がり。

そしてビールといえば、私には枝豆。
昔からなぜだか、
この二つは一緒だった。
塩味の向こうにほんのり感じる
枝豆の甘みと旨み。
それをビールの苦みが追いかける。

調べてみれば、
枝豆には
たんぱく質やビタミン類なども含まれ、
栄養面でもなかなか優秀な
ビールのお供らしい。
なるほどね。

でも私は、冷たく冷やした枝豆より、
茹でたての温かい枝豆が好き。
そして何より――紫ずきん。
丹波黒大豆から生まれた、秋の枝豆。

鮮やかな緑というより少しくすんだ深い色。
でも、その奥には強い甘みと
黒豆らしい濃厚なコク、
もちもちとした食感が隠れている。
ああ、もうそろそろ出回る頃かしら。

向こうの町へ帰って、
もし紫ずきんを見つけたら、
自分で茹でよう。

今度はビールのおつまみではなく、
温かいうちに、
おやつみたいにパクパク食べよう。

朝は何を見ても心が動かなかったのに、
いつの間にか私は、
もう帰ったあとの小さな楽しみを
思い描いていた。

真っ白だった今日のキャンバスに、
ほんの少し、秋の紫が落ちたみたい。
それにしても。
枝豆とビールが
どんなに相性のいい組み合わせ
だったとしても、
飲みすぎてしまえばどうにもならない。

科学の最高の組み合わせでも、
人間の欲望には勝てなかったということね。

そんなことを考えながら、
コーヒーをもう一口。
今日は、12時ではなく14時から。

決めた予定を変えるのは
少し気持ちがざわつくけれど、
今の私に必要なのは、
無理に予定通り進むことではなく、
三時間の余白だった。

さて。
洗濯物を干したら、今度こそ眠ろう。
横浜最後の朝だからこそ、
急がず、今の私の時間で。