風さんと別れ、車に乗った。

ホテルの場所を確かめると、
そこは以前、
朝のウォーキングで
何度も前を通った場所だった。
「ああ、ここだったんだ」
最近はこの辺りまで歩いていないから、
ほんの少し前のことなのに懐かしい。

窓の外から空を見上げた。
朝は真っ白だった。
薄い雲がもやもやと浮かび、
やがてまた白くなった空。
それが今は、深く美しい黒。
真っ暗なのに、
不思議なくらい澄み切っている。
どこかから月が、
ひょっこり顔を出しそうだった。

なんだか今の私みたい。
朝に三時間ほど、夕方にも三時間ほど。
ぶつ切りだけれど、合わせれば六時間眠った。
眠ることで身体の疲れがほどけていくと、
心まで軽くなっていく。
睡眠って、大切なのね。

今さらそんな当たり前のことを
思いながら黒い空を眺めていると、
昼間魅たみなとみらいの風景とともに、
懐かしい記憶がふっと蘇った。
今夜はまだ語らないでおこう。
誰にも見せず、
胸の中だけでそっと再生する、
小さな映画のように。

そして——
最後のドアが開いた。
迎えてくださったあなたは、
すっきりと爽やかな空気をまとった人だった。

気さくで、お話も楽しい。
ご当地のお話にも花が咲き、
きちんと整えられた小物を見ていると、
なんだかそこにも
あなたらしさが見えた気がした。

初めてなのに、不思議と波長が合う。
「綺麗だね。お肌もすべすべ」
たくさん褒めてくださるあなたに、
今度は私が少しでも癒しを返したくなった。

優しく、ゆっくり。
すると、爽やかだったあなたから、
「可愛らしい」と言われた。
さらに、ギャップがすごくいいと…
嬉しかった。
癒しているはずなのに、
いつしか私も癒されていた。

爽やかなシャルドネを思わせるような、
芳醇で心地よい時間。
そしていただいた、
白ぶどうのジュース。
ひと口飲むと、ふと思った。

——ああ、あなたみたい。
シャインマスカットのように、
みずみずしく爽やかで、
それでいてちゃんと甘い。
「またぜひお逢いしたいわ」
抱きしめていただき、ホテルをあとにした。

外へ出ると、迎えの車が待っていた。
そして、その前に風さんが駆け寄ってきた。
「なんだか今日のあなた、
シャインマスカットみたい。
笑顔まで爽やかだよ」
「そうなの。
癒されたって言っていただいたら、
その言葉で私まで癒されちゃった」

誰かを癒したつもりが、
その人の笑顔や言葉によって
自分まで満たされて帰ってくる。
こういう時間って、本当にいいわね。
心からそう思った。

これが、今回の横浜ステイ、最後のドア。
けれどドアが閉じても、
すべてが消えてしまうわけではない。
今も心のどこかに残っている。
シャインマスカットのような、
爽やかで甘い香りとともに。