長い一日が終わろうとしている。
今朝の私は、
今日という一日を
最後まで歩き切れるのだろうかと思うほど、
体が重かった。
それでも、自分の体の声に耳を澄ませて、
少し予定を緩めた。
三時間眠り、そしてもう三時間。
眠りから目覚めるたび、
絡まっていた糸が
一本ずつほどけていくように、
頭の中は澄んでいった。
朝の私が見たら、
今の私を少し不思議に思うかもしれない。
今日開いた三つのドアは、
なぜかすべて車で向かう場所にあった。
いつもの街を歩いて辿り着くのではなく、
車窓の向こうで景色が次々と流れていく。
その少し離れた場所へ運ばれていく感覚が、
今日は妙に新鮮だった。
けれど、新鮮だったはずの景色の中に、
私は何度も昔の私を見つけた。
ふと目にした場所から、
誰かを想って
心をときめかせていた頃の記憶が蘇った。
別の場所からは、誰のためでもなく、
自分の時間を自分で楽しんでいた
ホテルでの記憶。
そしてまた別の通りからは、
少し前、
知らない道を見つけることが嬉しくて、
あちらへこちらへと
ジグザグに歩いていた
私の足跡までが浮かんできた。
不思議だ。
忘れていたわけではない。
ただ心の奥の引き出しに、
そっとしまわれていただけなのだ。
今日、偶然目にした風景が
その引き出しを開けてくれた。
取り出してみると、
そこにあった記憶は少しも古びていなかった。
むしろ、もう一度思い出したことで、
以前よりも輝いて見えた。
記憶というものは、
しまっておけば
色褪せていくものだと思っていた。
でも、違うのかもしれない。
ときどき取り出して、
眺めて、
あの時の自分の気持ちを
もう一度抱きしめてあげる。
そうするたびに、
記憶は磨かれていく。
そして磨かれているのは、
記憶だけではない。
その記憶を大切に抱いてきた、
今の私の心なのだ。
いよいよ私の今日一日の物語も、
最終章に入ろうとしている。
朝には、あれほど頼りなかった体が、
今はちゃんとここにいる。
三つのドアを開き、
三つの場所へ運ばれ、
その途中でいくつもの過去の私に再会した。
昔の私は消えてしまったのではない。
心ときめいた私も、
自分時間を楽しんだ私も、
街をジグザグ歩きながら
小さな発見を喜んでいた私も、
全部今の私の中にいる。
そして今日、
その一人ひとりにもう一度光が当たった。
だからきっと、
今の私の顔は疲れ切った顔ではない。
心の奥を柔らかな布で
何度も磨いたあとのように、
曇りが取れて、内側から光がこぼれている。
晴れ晴れとした顔をしている。
一日の始まりには想像もしなかった表情で。
そして今夜、今日という一日だけではなく、
六日間の横浜ステイも終わろうとしている。
振り返れば、
この六日間にもいくつもの色があった。
人との再会に心を染めた色。
風さんと歩きながら魅つけたた色。
立ち止まり、眠り、
自分の体の声に耳を澄ませた時間の色。
そして、心の中に生まれた小さな新芽を、
大切に育てようと思えた色。
六日間で私は、
何か大きな答えを手に入れたわけではない。
けれど、見て、感じて、考えて、
心に染み込ませながら歩いてきた時間は、
確かに私の中に積み重なった。
今日、私が拾ったのは
新しい景色だけではなかった。
過去の自分が残してくれた、たくさんの光。
そしてこの六日間に新しく生まれた、
たくさんの光。
その両方で心を磨きながら、
私はまた少し、新しい私になった。
横浜で過ごした六日間の幕が、
静かに下りていく。
けれど、
ここで生まれた色も、光も、心の新芽も、
幕の向こうへ置いてはいかない。
全部、私の中に連れて帰ろう。
最後のページはどう書き記そうか。
――思い出すことは、
過去へ戻ることではない。
昨日までの私が残した光と、
この六日間で生まれた光で、
これからの私の心を磨いていくことなのだ。
記憶を磨けば、心は光る✨
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